OjohmbonX

創作のブログです。

0-01-02から1日間の記事一覧

ポーラー・ロゥ (10)

わざと立てているとしか思えない派手な音を立てて弟は毎日家に入り込んできた。時間は決まっていない。食事どきでも明け方でも構わず現れた。郵便受けの口から剥したガムテープを丸めてその辺に捨てる。捨てようとして粘着剤が手にくっついて上手く捨てられ…

ポーラー・ロゥ (9)

誰とも言葉を交わさず、他人が吐いた言葉に傷つけられることも、自分の吐いた言葉に傷つけられることもない生活がこれほど楽だとは知らなかった。毎日無言で買った弁当を食べて、寝て、掃除や洗濯をして暮らす。何かを分かろうとしなければいけないわけでも…

ポーラー・ロゥ (8)

決定的だったのは私がノリノリで弟の部屋のドアを壊す映像のリンクが張られたことだった。YouTubeに載ったその盗撮映像は、しかも私自身がアップロードしたということにされた。確認のために私は二、三十回繰り返し再生したが、何度見ても面白い。世界中で話…

ポーラー・ロゥ (7)

それは町民を二分した。私は何も書き込まずにただ見ていただけだったけれど、女に加担して私を無根拠に非難する者と、女の発言には証拠がないと言って中立を保つ者とに瞬く間に分かれていった。黙っているという選択肢は町民に与えられていない。掲示板で話…

ポーラー・ロゥ (6)

「あたしのあの子は、少年と青年の狭間に取り残されているのよ」 とヴァンダーは私の弟を「あたしのあの子」と呼んだ。 「奇跡だと思う。薄いシャツを着れば、麻の、ああいう手触りのシャツを着れば、その向こうに肌があるってことが、シャツの丸襟から伸び…

ポーラー・ロゥ (5)

リビングのテーブルに向かい合わせに座る。改めて女の顔を眺めると、白い粉の吹いたまんじゅうの真ん中に顔の具材が集まり過ぎている。目はアイラインの黒さに紛れ込んでいまいちどこにあるのかわからない。パンダのようだと言えば聞こえはいいが、「パ」の…

ポーラー・ロゥ (4)

この家は死んだ父が設計した。開かれた家を目指す、家族の間を仕切ってはならない、プライバシーを尊重しつつ、けれど気配を感じるように、明確な部屋という概念は捨て、ドアは作らず、壁にはどこかしら透き間をあける。という思想でとても地震に弱そうなす…

ポーラー・ロゥ (3)

もう一度眠って次に目覚めれば偏頭痛と一緒に腹立ちと今の悪夢も消滅するはずだ。目覚めれば、無邪気に信じる愚かさは措くにしても経験上、少なくとも偏頭痛は消える。そうでなくても眠ればとにかくこの苦痛は免れる。しかし眠りは私を平気な顔して見放した…

ポーラー・ロゥ (2)

医療技術の素晴らしさもさることながら、歯医者へ通う頻度の高さが口臭のすみやかな解消を実現せしめた。弟はすうーと家を出て行く。いつの間にか歯医者へ行っているのである。弟の口内は一体どのように処置されたのかと、口の中を覗こうとすると弟は、姉さ…

ポーラー・ロゥ (1)

この白い壁、私は思うのだけれど、まるで滑らかな、ざらつきを触れも見えもしないほど滑らかで鏡のように光る表面よりかえって、かすかな凹凸をその表面に持つ壁の方がそのかすかな凹凸どもが作りだすほとんど認知できないくらいにささやかな陰影や、指が表…