OjohmbonX

創作のブログです。

0-01-05から1日間の記事一覧

掛け値なしの嘘 (7)

跳べ、跳べと叫び続けていた。夏の江ノ島へ続く道のただ中なのだ、人通りも少なくはなく人々は叫ぶ男を避けて通る。立ち止まって何事かと見る者も、店の中から表へ出て露骨に迷惑そうな顔をする者もいる。蛙は緩慢な動きで振り返りもせずに私達から遠ざかる…

掛け値なしの嘘 (6)

テレビのチャンネルが普段と変わらないと、あんまり旅行したっていう実感が沸かないねえとややババ染みた口調でベッドの上を転がりながら万丈一久は言った。下着をつけたかは不明だがガウンの腰紐は結わいている。 テレビを消し、メインの照明も消してベッド…

掛け値なしの嘘 (5)

シーサイドライン、京急、JRと乗り継いで江ノ電の七里ケ浜で降りた。江ノ電では乗客が幾人か窓の外へ捨てられた程度で、とりたてて妙なこともなかった。 駅から海岸へ下りる道もあったが、もはや海は暗く奥の底も見当たらないので通り過ぎ、坂を上ってホテ…

掛け値なしの嘘 (4)

二人とも平気な顔をしながらその実浮足立っていたとみえ、起きていたのに一駅乗り過ごしてしまった。万丈一久は目に見えて不機嫌になっていた。乗り過ごした先で、下りの列車へ移る前に私はしばらく前からかすかに感じていた腹痛に用心して便所へ行った。そ…

掛け値なしの嘘 (3)

万丈一久は熱心な分析を語り終えて一息もつかないうちに、しりとりをしようと提案してきた。でも俺たちもう二十五歳じゃん普通にしりとりするんじゃなくて簡単な解説を付け加えるの。しりとりの、リ、俺からまずお手本。リャマ。アフリカに住むシカ。え、リ…

掛け値なしの嘘 (2)

待ち合わせ場所に万丈一久がやってきたのがもう十二時近くだったから昼食を先にとることにした。品川駅から出て万丈一久がどの店を見ても、もうちょっと他の店を見てから、一通り見てからにしよう、うーんイタリアンっていう気分じゃないんだよね、この店は…

掛け値なしの嘘 (1)

万丈一久は目を覚ました時、何かを炒める音を聞いた。熱いフライパンに細かく刻まれた瑞々しい野菜がその水分を一瞬で蒸発させて弾ける音を足元からまず聞いたのだった。それから、朝のニュースを流すテレビの音を聞いた。木のまな板に包丁の刃先が当たる律…