OjohmbonX

創作のブログです。

0-01-06から1日間の記事一覧

他愛なく無用である (9)

また春と呼べる程度に寒さも和らいだから日があたる縁側に腰掛けて庭を眺めていた。頼んだ覚えはないがよく手入れされていると気づいた。四十年暮らして今更に知った。風に誘われて家の奥から孫娘が一人やってきてふいに私の背に体をもたせかけた。私は体を…

他愛なく無用である (8)

私は自伝『希望と絆』をいんちき出版社から出して稼いだ小金を元手に自分でも何だかよく分からない仕事を興して成功した。ちょうど世界中で最後の悪あがきが始まった時代だったから、その中にあって金儲けはずいぶん容易いことだった。やろうと思うかどうか…

他愛なく無用である (7)

その日からリハビリが始まった。吉岡はほとんど毎日やって来ては具体的なアドヴァイスも無しに大声で叫んでいた。「集中しろ、集中しろ!」「どうした、涙は明日の糧になるんだ」「無理やり元の手足に似せようとするからかえって、それが似ていないという印…

他愛なく無用である (6)

珍しく夜中に男子大学生とその馬面の恋人が部屋にいた。私をうすい紫のシーツで包んで外に運び出した。頭と顔もつつまれていた私は、振動と音だけで外を見ていた。エレベーターを降り車の後部座席に寝かせられた。エンジンもかけずに運転席と助手席で二人が…

他愛なく無用である (5)

「あの、こんな感じですけど」 また夜だった。寝ていたとも思われない。もし私が眠っていればこの男は気兼ねして起こしにかかれはしない。いつも通り話し掛けてきたところを見ると私は起きているように見えたのだろうがまるで記憶がなかった。女はもう部屋に…

他愛なく無用である (4)

夕方になって男は出掛けていった。部屋は暗くなっていくがモデムやらテレビやらのLEDの明かりのせいで暗さに沈みきりはせず、自分が目を開けているかいないかを知ることはできた。夜遅くに男は帰宅し、いつも通り奇怪な流動食を私の口に流し込み、水とおむつ…

他愛なく無用である (3)

それからブログのコメント欄で名もなきじじいと争っていたことを脈絡もなく思い出していた。これは進行中だったが今まですっかり忘れていた。名もなきじじいは、ある戦争映画を詰まらないと判断した私の他愛ない記事について反論していた。私はその物語の組…

他愛なく無用である (2)

熱い、と思ったが痛みだった。背中一面が筋肉痛を数段踏み越えたような痛みだったが、四肢は痛みというよりやはり熱かった。上手く息ができない。口を何かが満たしていて呼吸がままならなかったがすぐに外された。外されたのは猿轡状の布だった。視界と音が…

他愛なく無用である (1)

五十七分。あと三分。いまさら何かを始める時間ではない。しかし手を休めて放心するわけにはいかない。同僚達が見ていないようで見ている空間なのだ。というより正確には、同僚達が見ていないようで見ていると私が見ている空間なので実のところ、同僚達とは…