OjohmbonX

創作のブログです。

たっくんはいない(1)

 あのね、あたし
「すっごい奇跡。だね。宇宙であたしとたっくんが出会ったのって、すっごぃ奇跡。ね、たっくん。ね。たっくん? たっくん? やだ、息してない……」
 そしてあたしはたっくんの骨壷をだいてエジプトに旅立った。たっくんは息してるときにエジプトに行きたいってゆってた。だからあたしが夢をかなえる。
 たっくんの粉末をスフィンクスに投げつけてたら、エジプトの男が走ってきてすっごく怒ってきた。あたしは英語がすごいから、言ってやった。
「ノーッ。ボーンボーン。ズィス・イズ・ア・ボーン、パウダー。アイ・アム・ジャパン。ズィス・イズ・タックン。タックン、アイ、ヒー。ノーッ。」
 あたしは連れていかれた。
 牢屋の中で冷静に考えた。あのエジプトの男、たっくんの骨壷を指さして怒ってた。一人でまくのはずるい、俺にもまかせろ、って怒ってた。だからあたしは、これはカレシのボーン・パウダーだから、だめだって言った。ノーと言える日本人だよって。
 でも指さしてたのって、ほんとはあたしの胸の可能性ある。あたしおっぱい、すごい。たっくんも大好きだった。セックスするときたっくん、いっつも湯たんぽの袋をあたしの頭にかぶせてた。大好きだよって。顔を見ると気が散るからって。あたしすっごく愛されてた。セックスをあたしと楽しむために、たっくんほんきだった。
 ああっ!
 さみしいなーっ。たっくん、あいたいよ、あたし、たっくん、あいたい……
 涙がぽろぽろ出て、おっぱいもぽろぽろ出して、あたしもんだ。たっくん思い出してもんだ。たっくん。たっくん。
 そしたらエジプト人がきた。びっくりした顔した。
「オゥッ、クレイジガール……」
 ガールは分かるけど、クレイジってなに? たぶん英語じゃない。エジプト語でセクシーっていう意味の可能性ある。それであたし自動的に日本に帰ってきた。テレビ見てたら若い男の子や女どもが黒い服きてうじゃうじゃしててすっごくキモい。シューカツだって。シューカツ! そうだ、あたしもシューカツしなきゃ。だってもう三七歳だもん。
 でも三八歳かもしれない。わからない。あたしむかし発見したんだけど、今年と生まれた年で引き算しても、ほんとのあたしの歳になるときとならないときある。電卓がおかしいんだと思って、ひっさんしたら、もっとぜんぜん違う数字になった。ほんと意味わかんない。それを発見したときからあたし、年齢のこととかぜんぜん信用してないから。電卓のこともはっきりいって信用してないし。
 それで履歴書には約三十歳って書いた。でもちゃんと生まれた年も書いたし、念のために干支も書いたからわかると思う。


 1875年7月31日 (約30歳)←うさぎ


 不安になったから、もういっこ矢印で引っ張って、「←これはえとです。動物うらないだとサルです。」って書いた。
 シューカツってどこでやってるんだろ。とりあえずあたし品川にいった。すっごい高いビルに入った。人がどんどん入ってくからあたしも入った。ビルに板が貼ってあって会社の名前が書いてある。


 14F 株式会社FBJ


 あたしこれ聞いたことある。アメリカの映画で見た。だからエレベーターに乗った。十四階のボタンがもう押してあった。この中に、あたしの同僚がいるってことだ。そう思ったらすっごく気持ちたかぶってきた。それでガッて音がしてあたしのおならが出て、ほとんど便と同じにおいがしたから、悲しくなった。あたしはいつも、マンションのエレベーターに一人で乗るときはおならしてて、そういうパワーのあるにおいのが出たときはほんとにうれしい。でも今から就職するのに出ちゃって、同僚もいるのに嗅がれちゃって、こんなのほんとのあたしじゃないのにって思ったら涙でてきた。おならして泣いてる女だって思わないで! あたしはおならして泣いてるんじゃない。ほんとのあたしとちがうってことに泣いてるんだ。ほんとのあたしは、一人で静かにおならする女なのに。
 でももうにおいしない。マンションのときはにおい長続きするのにふしぎ。高いところは空気がうすいって聞いたことある。だからうすまったのかな? でも「うすまる」ってなに。あたしのおならはどこへ行ったの。たっくんの骨はエジプトにある。風に吹かれて、飛んでいって、たぶんスフィンクスとかピラミッドにくっついたり、あと砂漠の砂にまぎれてる。でも消滅してない。ちゃんとある。だからあたしのおならもちゃんとあると思う。なのににおいしなくなる。どういうこと。
 それとも、人数がいっぱいいるから? みんながあたしのおならを吸って……おならを吸うとどうなるんだろ。おならとして出てくるってこと?? そしたらもっとくさくなる可能性ある。でも現実はにおいしないから、みんながあたしのおならを吸って、きれいなおならとしてみんなから出てきて空気がきれいになってる?
 そういう世界のシステムのことを考えるといつも頭が熱くなって、ぜんぜんわからなくなる。でもあたし嫌いじゃない。そういう世界のシステムのことを考えること。
 十四階についた。正社員といっしょにロビー抜けてオフィス入ろうとしたら受付の女に止められた。
「IDを見せて下さい」っていう。あたし新入社員なのに説明してくれないとわからない。リュックから履歴書だして見せて通ろうとしたら止められた。
「IDを見せて下さい」っていう。だから! 説明してくれないとわからない。女がすごくびっくりした顔してる。でもはっきり言ってあたしの方がびっくりしてる。責任者だしてってゆったら警察みたいな制服きた若い男がきて日本のFBIの姿だと思った。履歴書だした。ほんとの警察がきた。でもFBJは日本のFBIだから、警察より上だ。なのにあたしは連れていかれた。
 あたしシューカツのことわかった。あたしの履歴書、「職歴」の意味がわかんなくてまっ白にしてた。でも今はわかる。書いた。


2012年12月 〜 2012年12月 FBJ(日本のFBI


 職歴ってあたしの就職活動の歴史のことだ。こうやって履歴書の空白をうめてくのがシューカツなんだ。キャリアを積んで、最大限のあたしを見せる。この履歴書で、あたしのかがやきをマックス表現する。
 あたし履歴書に名前と生年月日しか書いてなかった。(あとえとと動物うらない。)ほかは意味わからなかったもん。でもあたしはあたしを表現すればいいと思った。
 「写真」ってゆう四角いスペースに、あたしは大好きなチャミの写真を貼った。東方神起だと、ユノかチャミですごく迷ったけど、やっぱあたし自身を表現するのはチャミ。ちょうどいい大きさのがなかったから、すごくはみ出てるけど、あたしがチャミを大好きだって気持ちはかなり伝わってる。顔にかぶらないようにセロテープで貼るのがむずかしかった。
 「資格」ってなに。あたし必死で考えた。あたしには生きる資格がある。それは絶対いえる。だからあたし書いた。


生きる


(つづく)