OjohmbonX

創作のブログです。

たっくんはいない(3)

「ゴブラン、花柄、ドット。全身モノトーン、ジャカード、コーデにパンチ。前リボン、前リボン、フェミニンなリボンは取り外し可能。」
 あたし声にだして読む。そうしてると、心があったかくなってくる。あたしの中に入ってくるっていう感じ。そんな気持ちが好きで、買って、声に出して読んでる。アルファベットはふりがながついてるやつを読む。ふりがながついてないのはたぶん英語じゃないから読めない。
「リッ、リッチミーニュー。リッチミーニュー、ヨーク。ビビッドなイエロー。ビッグリ、ボン。ビッグリボン。パンプス。」
 くつのことを、いつも違う呼びかたをしていて、法則がないから、いつも一回一回ページを開いて、声にだしてる。スカートだって、ズボンだってそう。読み方がむずかしい言葉はなんども練習する。読めるようになったとき、あたしはすごくうれしくなる。そのときファッションがあたしのものになる。だからCanCamをずっと買ってる。急に食べ物の写真がいっぱいでてきたページにきた。ガストのメニューだって。
「濃厚ビターチョコ&バナナサンデー。オムライスビーフシチューソース。とろーり温玉ドリアは肉でたんぱく質をチャージ。」
 どれもおいしそう。おなかがすいてるとき、本質的にあたしはいろいろ注文する。それで出てきて、すごくおいしそう、順番に食べていく。食べ終わった後に、とてもお水ほしくなったり、つらくなったりする。お母さんが「そんなにたくさん頼まないで」という。だが本質的にあたしはいろいろ注文する。お水がほしくなったり、体がつらくなったりするっていうのは、そうならない何か正しいやり方があって、あたしがその正しいやり方をしていないからと思う。あたしピンときてちゃおを急いで開いた。
「モテ子の基本は一日三食ちゃんと食べること。朝食と昼食はしっかりと。夕食は少し軽めにするといいですよ。」
 未海・リン&テモテモのめちゃモテ講座。ここにはいつも真実が書いてあるから、一日三食ちゃんとガストを食べないから、あたしの体がつらくなる。今日はお母さんが出かけてて、ガストは行けない。それでもあたしのごはんの時間がついにきたと思った。あたしの冷蔵庫をあけた。あたしの冷蔵庫は小さい。お母さんの冷蔵庫は大きくて、お父さんが生きてたときは、みんなの冷蔵庫だったけど、弟が家にいなくなって仙台にいって、お父さんが死んで、五年か十年くらいしてお母さんが、いつのまにか小さい冷蔵庫をおいてて、それはあたしが自分でそこにごはんを入れたり出したりして、食べるってことを言った。あたしは自分でごはんのことをやるってこと。ウインナーが入ってて、賞味期限が八月二四日って書いてある。今日が八月二八日だから、賞味期限の方が古代だ。卵が五個あって、賞味期限が八月二七日だから卵も古代だ。牛乳は賞味期限が八月二六日だから牛乳も古代。昨日やその前の日に見たときは、賞味期限より今日の方が古代だったのに! 冷蔵庫のなかで、賞味期限が順番に古代になってくのを黙って見てると、あたしの人生の日にちが、いっこいっこ減ってるんだなっていう実感がすごくわいてくる。そういうときあたし、すごくこわくなる。ヨーグルトの賞味期限は八月二八日で、今日とおなじだから古代じゃない。
「むとうのヨーグルトにフルーツを入れたおやつもおススメです♪」
 モテ講座でリンのふき出しの横に書いてある文字。これも真実だから、あたしはフルーツを探したけど、なかったから、ヨーグルトは食べずに、冷蔵庫に戻した。卵は古代だけど一日だけだから、ぜんぶ割ってフライパンで焼いたものを食べた。かなりお腹がいっぱいになって、体がつらいって感じがでてきて、やっぱり三食ガストじゃないから体がつらい。お布団に寝転んでちゃお読む。毎日読んでるけど12歳。は絵がすごくきれい。顔の線が太くなったり細くなったりしてこんなやわらかくて髪の毛はさらさらしてる。黒いところと白いところがはっきりしてる。口もいろんな形になってすごい。目がいちばんすごい。歩がダンスをきめたとき、花日がびっくりしてる。そのときの花日の目が何回見たってきれい。最初きらきらしてるって感じがする。でもちゃんと見ると黒目の中の黒いところがちゃんと紙のもういっこ奥にある。あたしピンときて急いで立ち上がって履歴書書いた。


2012年12月 〜 2012年12月 FBJ(日本のFBI
2013年7月 〜 2013年7月 NHK(女子アナ)
1998年?月 〜 2002年ごろ?月 ちゃお(漫画家)


 あたしはちゃおまんがスクールに出してた。一番大事なのは目だから、ずっと目を練習してて、かなり上手くなったから、たくさん目を描いてちゃおまんがスクールに出してた。これで賞をもらうとちゃおの漫画家になる。三十一枚めいっぱい、あたし最高の目を描いて出してて、賞はもらえなかった。12歳。をみるとあたしの目よりずっとすごい。それに絵がぜんぶ、すっごくきれいなのに、線がかっこよくて、でもやわらかくてかわいい。こんなすごい絵は、あたしが現役だったころは考えたことなかった。かわいいっていえばドーリィ♪カノンもすごくかわいい。顔がふにっとしてて、目もきらきらしてる。新しいかわいいって感じする。みんなの前で歌を歌うところのレミ。今あたしたちがかわいいと思うかわいさにほんとにぴったり、カンペキ合体してる。この二つは毎日みてもすごい。ほんとにすごいと思うけど、どうしてかわかんないけど、でもあたしがほんとに好きな絵じゃない。一番はキミソラ。絵が上手いって感じしない。絵はちょっと古いタイプ。
(こんでるしはぐれたら困るから手つないどこっか!)
 星夜が女と二人でプラネタリウムきた。今のは星夜がゆった。あたし声に出さずに読んでる。
(きょうだいならこれくらいフツーだし気にすることもないよなー)
 星夜にとって、女は義理のお母さんの子だから、きょうだい。
(そ…そっか!)
 女がとまどいながら、でも星夜の言うことに納得する。
(…ごめん…ウソです
 ホントはきょうだいなんて思ってない…)
 でも星夜は急に頬を赤らめて、ちがうっていう。
(莉花と手つなぎたい いいわけ…)
 男の子にこんな顔されたら、あたしどうしたらいいの。いつもこの星夜の顔のところで、そっとちゃおを閉じる。あたし枕に顔を押し付けてじっとする。あんなに顔を真っ赤にして、目もあわせられずに、困ったような顔して、ほほに少し汗までかいてる。恥ずかしいの気持ちがもう、からだいっぱいにあふれてしまうのに、ちゃんとほんとのことを言わずにいられない、好きだから、ウソつけない。がんばって言うんだもん。男の子にこんな顔されたらあたし、何回だって胸がいっぱいになって何もできない。すこしきもちが落ちついてきて、あったかいため息をいっこついて、うつぶせからあお向けになる。天井ちょうきたない。そしてあたしはきれいになった。ちゃおはあたしの内面を美女にする。内面だけじゃない。あたしの部屋のドアの横にたくさん服が積んであって、それはわりと洗濯してあるやつで、そのいっこ奥が、空になったティッシュの箱がだいたい積んである。服と本棚のあいだに透き間があって、そこから手をいれて、途中でまげると、ティッシュの箱の積んである下のところに手がとどいて、そこからつかんで引き出して、やっぱりちゃおのおさいふがあった。うれしくなる。これはコーデに使える。ちゃおの三月号のふろくのおさいふ。紫色ですごくきらきらしてる。お布団のまん中においた。あたしの部屋で蛍光灯の光がまっすぐ届くのはここだけだから。光をあてると、紫色のなかで細かく光がきらきらしててじっと見てると近くにあるのか遠くにあるのかわからなくなるふしぎ。
「きらつやガーリー。」


(つづく)