OjohmbonX

創作のブログです。

たっくんはいない(4)

 お母さんおそいな。卵をいっぱい食べたのがおとといで、それからずっといない。おさいふをリュックに入れた。このリュックはお母さんが買ってくれたやつでセンスがいいから気に入ってる。のんちーのリュックで、のんちーって現代だとピカチュウみたいな感じ。たぬきっぽい体で、耳がとがってて、体がきいろくて、それがリュックになってて背中のチャックを開くとものを入れたりしまったりできるしくみになってる。弟が小五のときにのんちーの耳をひきちぎったから右耳がないけどお気に。自分でちぎったくせに、びっくりした顔して泣き出したから、あたし怒って耳でひっぱたいたらもっと泣いて、それ見てたお母さんがあたしに怒ったから、あたしごめんねって言った。それくらいから弟はすごく頭がよくなって私立のすごい中学校に通って、あたしが耳で叩いたことと関係ある可能性ある。そのときの耳どうしたんだろ。あたしが捨てるってありえないから、部屋のどっかにあるかも。CanCamでメイクの勉強しよーっと。いつもかなり難しくて、まゆを描くっていわれるけど、鏡とCanCamを見比べて、あたし気づくのは、CanCamとあたしのまゆ毛が違うってこと。本質的だと思う。あたしのまゆ毛はもっと黒いし、描かなくてももうあるし。あたしは目を描くのがすっごく得意だけど、目は描かなくてももうあるし。それに目の上の部分に色を塗るところで気づくのは、あたしの目の上の部分(それはまゆ毛の下の部分)がCanCamより広い。CanCamの通りに色を塗ってくと、まん中へんをどうしていいか分からなくなる。まん中っていうか全体的にちがう。最初に顔が大きい。歌舞伎さんだと顔が大きいとすごくいいってきいたことあって、あたしそこはプライドすごくある。舞台でお客さんからよく見えていいってきいたことある。あたしは人生という舞台に立ってると言えるから、その点ではベストな大きさかもしれない。でも化粧品がすぐ減るのが、みんな人それぞれ悩みがあるからしょうがないけど、つらい。それから、鼻筋が通ってて、面長。人はそれを馬面とよぶよ。でもあたし動物うらないはサルだ。えとはうさぎ。そうやってあたしの中でいろんな動物が生み出すパワーがあたしのパワーになってる。CanCamと違う部分はアレンジしていつも好きな色を塗ってる。あたしラメが好きだからラメの入ったやつを塗る。ラメ! リュックから急いでさいふを出す。そう、これラメっていうんだった。このキラキラ。お布団のまん中にちゃおのおさいふを置く。やっぱきれいだな。体がだるいからお布団に寝転がっておさいふ見てる。眠たい。じっと見てると近くにあるのか遠くにあるのかわからなくなる。ちょっと目をつむる。いっきに体が楽になる。あたしメイクしたままだって思った。べたべたして気持ちわるい、いけない……
 起きた。体だるい。お水飲む。お母さんいるじゃん。
「最近いなかったよね。」
「何言ってるの。お友達と旅行に行くって言ったじゃない。」
 そうなんだ。あたしも久しぶりに旅行にいきたいと思って上野に行った。


2012年12月 〜 2012年12月 FBJ(日本のFBI
2013年7月 〜 2013年7月 NHK(女子アナ)
1998年?月 〜 2002年ごろ?月 ちゃお(漫画家)
2013年9月 〜 2013年9月 動物園(人間)


 いちばん困るのは、CanCamに出てくる色を塗るセットがいつも違うから、いつもそれと同じやつを買わないといけないけど、どこに売ってるのかよくわからない。
「アイシャドウ。アイライン。マスカラ。チーク。リップ。あとアイシャドウ。」
 CanCamに書いてある通りに色を塗っても、あんまりよくわからないから、何度も重ねるのがコツ。かなりはっきり赤色、青色っていうのがわからないと不安になるから。あとラメ。服はお母さん買ったやつ。お気にのワンピがあって、白いところに青と黄色の大きなお花が背中からお腹にむかってすごい。これだけだと寒いから、キラキラするジャケットをはおる。キラキラすると言ってもこれはラメじゃない。キラキラする小さい丸がいっぱい紐で表側にぬってあって、遠くから見るとすっごいキラキラする仕組み。大きなリボンが金色でついたサンダル履いて、あたし出家した。霞ヶ関にきた。ここはあたしのエリアの中心。歩いてたら虎の門まできた。美容室ザンジバァール。
「ご予約はされていますか。」
「してないです。」
 あたしリュックからCanCamについてきた髪の毛の図鑑、いろんな女の頭の写真がいっぱいのってるやつのこと出してカウンターに広げた。
「どう思いますか。」
 カウンターの女が答えないからあたし言ってやった。
「はっきしゆってみんな同じに見えますでしょう? おんなじ髪の色だし、形もおんなじに見えますわよね。」
 あたしは怒ってびりびりに破いて、リュックにいれて、リュックからかわりにちゃおを取り出した。ドーリィ♪カノンのページを開く。一ページずつ最初から順番に開いていく。カノンがカラオケにきたページ、これだ!
「あたしこちらの髪形でお願いします。」
「大変申し訳ありませんがご予約でのみ承っております。」
「はぁい!」
 あたしは家に帰った。すっごく緊張した。もう気もちがぎりぎりだった。


2012年12月 〜 2012年12月 FBJ(日本のFBI
2013年7月 〜 2013年7月 NHK(女子アナ)
1998年?月 〜 2002年ごろ?月 ちゃお(漫画家)
2013年9月 〜 2013年9月 動物園(人間)
2013年10月 〜 2013年10月 霞ヶ関


 ちがう。こんなのシューカツじゃない。霞ヶ関のところは消した。ボールペンだから消しゴムで消えないから、上からぐるぐるに書いて、それに目を書いて最初っからイラストってふんいきにした。もじゃもじゃしたマスコットキャラって感じで。目はあたしの独壇場だから、12歳。には勝てないけど、あたしの中でも一二を争う目を描いた。あたしはあたしのマックス魅力をカンペキ表現するために美容院に行っただけだ。それはシューカツのためだ。だから職歴にするのはぜったいおかしい。髪の毛がわきくらいまで伸びてて、あたまのうしろで縛ってて、女のサムライって感じがしてる。髪の毛が頭から出てきた段階でパーマがかかってて黒いしアジアのふんいきもある。あたたあたあたしカマモンを抱いてお布団に寝転がった。胸にぎゅっとおしつけるとたっくんがあたしの中でいっぱいになる。あのときたっくんは世界最高峰だった。あたしカマキリのぬいぐるみほしいって。UFOのゲームでたっくんがUFOのやつをまずこっちに動かしてそれから向こうに動かして、このUFOの動きはたっくんの手の下にあるボタンと連動してるんだけど、それでUFOが下に下がっていって、UFOの手が閉じて、上に上がって、UFOがこっちに戻ってきて手が開いて、ぬいぐるみがUFOから穴に落ちると、あたしたちはぬいぐるみをゲットできるんだけど、ぬいぐるみはそこにいない。ぬいぐるみがUFOにいないってわかってるのに、わざわざあたしたちのとこにUFOが戻ってくるのを見てる時間、あたしすっごくむなしい。たっくんは二十回くらいやって店員さんがドア開けてカマキリのぬいぐるみを出してくれた。ずっとUFOを我慢して見てると願いがかなうんだ。たっくんのがんばりが金メダルだよ。カマモンは弟はさわってないから腕とかちぎれてない。カンペキなカマキリの姿。ねえカマモン。あたしどうかな。魅力カンペキ? そんなわけないよね。だって美容室には行けなかったし。あたしねカマモンわかってる。あたしぜんぜんだめだ。メイクだってわかんないもん。ファッションだってそう。鏡であたし見て、ぜんぜんCanCamじゃないってことわかってる。でもどうしていいかわかんない。もう十一月だよ。二〇一三年ってあっというまだったな。あたし今年はちがうって思った。今年はシューカツ完成する予感した。でも何にもできてない。あたしこうやってだんだん死んでくの? つらすぎるよ。こんなのほんとの二十一世紀じゃない。カマモン……


(つづく)