OjohmbonX

創作のブログです。

たっくんはいない(5)

2013年9月 〜 2013年12月 CanCam(読モ)


 読モに応募してたのに十二月に出てきたCanCamにあたし載ってなかった。美容室に行けなかったからだ。二〇一四年になった。あたしは電卓で計算した。一九七五、引く、二〇一四、わ、マイナス三九。あたしはマイナス三九歳ってこと? 赤ちゃんより逆に若いってことなわけ。じゃあなんであたし肌ぼろぼろなの!? 嘘つき、嘘つき、やっぱり電卓のことは信用できない。あの子たちなら電卓のこと支配できてるけどあたしはまだだ。あの子たちは二〇一三年でものすごくいろんなこと支配できるようになっただろうな。あたしはなんにも進んでない。今年のお正月は弟の一家かえってこなかった。弟が実家でてからお正月にいないのは初めてかもしんない。よかった。こんなあたし恥ずくてあの子たちに見せらんない。あたしが恥ずくてあの子たちをまともに見れない。だから来年のお正月にあたしを見なさい。あたし、すっごいから。それで今ものすごくわかったことがあって、あの子たちがものすごい早さでいろいろな世界のシステムを手中に収めているのは、学校の先生や、弟や弟のおよめさんみたいな、導く者たちがいるからだ。あたしにはお母さんがいる。
「ねえお母さん。久しぶりにガスト行かない?」
「図々しい……」
 あたし、のんちーの背中のチャックを開けて、中からおさいふ出して、おじさんの名刺出して電話した。
「警察って市民の味方だとあたしは信じてます。あたしはNHKでティッシュをもらった女です。」
 おじさんはハローワークというものへあたしを連れていった。職員の女はものすごい怖い顔した。あたしはおびえた。
「あたし今までも独自にシューカツをかなりやっててその点ではベテランと言っても過言じゃないです。さっき見たと思いますけど警察のおじさんがあたしをここへ連れてきてあたしのシューカツが完成する予感かなりしてます。あたしはだからハローワークのお手並み拝見です。」
「あたし、ではなく、私、と言うようにして下さい。」
「はい。私、履歴書、あります。」
 女は私の履歴書を受け取って二秒くらい見て私に返した。女は机の下から紙を三枚取り出した。履歴書の真の書き方を教える紙と、もうお手本が書いてある紙と、何も書いてない履歴書の紙だった。女はそれらを駆使して私に履歴書の全部を伝授した。職歴って私のシューカツの歴史じゃなくて、職業の履歴だと言った。女といっしょに書いてった私の真の職歴はまっ白だった。私は偽ものの履歴書をさいしょからなかったみたいにこっそりリュックにしまった。
「お勤めの経験がないようでしたら、年齢のこともありますし、まずはパートタイムで働いてみてはいかがですか。」
 私はスーパーで働いてる。夕方にむけてお刺しみをつくる係で、最初はシナダシの係だったけど、身分が上がってつくる係にもなって、三時にお店に入るから、うちでお昼ごはんを食べて、お母さんはとても喜んでくれて、お昼ごはんも朝ごはんもお母さんがお母さんの冷蔵庫から出したやつで作ってくれてとてもうれしくて、スーパーは駅をはさんで向こう側に、ちょうどうちから駅までと同じくらいの距離にあるスーパーで、私は今まで行ったことなかったスーパーで、お母さんも私も自転車に乗れないからうちに自転車は必要とされてないから、歩いていくとかなりひざが痛くなって、スーパーでずっとお刺しみを切ってると腕はギューッて痛くなるし、あしも立ってられないくらい痛いっていうのは、私は通常の女よりあしががんばらないといけない、それは私が大型だから、そういう点で不利と思われたが? 五回目くらいで平気になってきて、労働ってすてきだと思う。しかも私は驚くことのべきに、お刺しみを切るのがすっごく上手。私の腕の前半のぶぶんと同じくらい長くて細い刀で、お魚がピシャーッ、ピシャーッて切れていく。盛りつけの才能もはちきれんばかりで、世界中のどのスーパーに出しても最高峰だと思う。主任という名の女は、悪女で、私に怒ってくる。いつも早くしろっていって、私が盛りつけを世界のレベルでやってると、手でお刺しみがあったまるって怒る。人ってぬくもりを求める生き物だから、お刺しみがあったまって何が悪い? ぜんぜんわからない。わからないのに怒られて、怒られないようにやったことでまた怒られて、こういう苦しいって気もちは大人になったらなくなるって小学生のとき信じてて、高校生になったら私のことを大人が気にしなくなって怒られなくなったからすごく気もちが楽になった。でもこんなに大人になったのにまた怒られなきゃいけないなんてひどいよ。主任が私を怒るから、他の女どもも私を怒っていいってことになって怒ってくる。お母さんはでも、がまんしろってゆう。主任やスーパーの女どもは、私より前から働いてるから、私はがまんするっていう。けんかせずに仲良くするっていう。口ごたえせずに、すぐに「はい!」「はい!」っていう。ひな祭りの日が爆発するくらい忙しくてお刺しみ切ってたら、主任が「早くして」って私に怒って私
「分かってる!」って言ってて、主任が岩みたいな顔になって
「分かってるならやりなさいよ。」って言った。
 私びっくりした。そんなこと言うつもりもなかったのに、いままでだって、思ってても言わなかったのに、かってに私が言ってたから。そんなことはじめてって感じしたけど忙しいから一生懸命お刺しみつくった。主任は悪女だけど、いつも怒ってくるわけじゃなくて、たまになんかわかんないけどひまなときあって、お魚のコーナーの後ろ側で立ってるんだけど、他の女と主任がしゃべってて、私はお魚のゴミの部分を袋に捨てたりとかして、そういうやることなくなると、お魚のコーナーのまどのところからお店の中を見てて、私は背の高さの大きさが通常の女よりすごいから、まどがちょっと他の女どもより下にあるから、お店の入り口の方まではよく見えなくて、わりと近所しか見えない。他の女がいないときは主任が私に話してきて、主任には中学生の息子がいるってゆう、私は、「そうなんですねー」ってゆってにこにこしてる。子どものころお母さんがはじめて会った人とふつうにお話ししてるのを見て、そのとなりで子どもの私がもじもじして、大人になったらお母さんみたいに知らない人といきなりふつうにほんとにお話しできるのかなと思ってたけど、私できるようになったから、やっぱりね、と思った。すっごく緊張して、いっぱいいろんなことをお話しすると、相手の人が変な顔したり困った顔したりするから、不安になるから、もっといろんなことをいっぱいお話しして、後から考えると、私は別におかしなことは一つも言ってないってわかるから、安心する。すっごく緊張して、すっごくいっしょうけんめい頭のなかにお話しすることを探してるのに何にも出てこなくて、とても不安になるけど、にこにこしてて、後から考えると、私はちゃんとにこにこしてるんだから私はおかしくないってわかって、安心する。いきなりまどからおばあちゃんがニューッて出てきて私すっごくびっくりして心臓が爆発する感じした。主任はびっくりしてない。主任からはおばあちゃんが最初から見えてたから。私は背の高さの大きさが通常の女よりすごいから、まどがちょっと他の女どもより下にあるから、お店の入り口の方まではよく見えなくて、わりと近所しか見えない。主任はまどを開けて、おばあちゃんはお魚をさし出して、おばあちゃんは「サンマイオロシ」って言った。おばあちゃんは小さい生き物だから、主任がまどから手を出して、お魚を受け取ろうとするけど、お魚も小さいやつだから、とどかない。主任は、最終的に悪女だから、私を怒って、私は主任のかわりにまどから手を出しておばあちゃんから魚を受け取って主任に渡した。十匹もいた。主任が三匹私に渡してきて私はびっくりした。
「せっかくだからやってみて」って。
「これは主任がやる術で私はお刺しみをつくる係だと思います。」って私ゆったら主任がまた怒って、
「別に誰が何の係かなんてないわよ。」ってゆった。
 私体じゅうがピカーッて開くみたいな感じでびっくりした。私いつもサンマイオロシとかそういうのは他の女どもがやってるの見てて、他の女どもがやるのが当たり前なんだと思ってた。でもそうじゃないんだ。私はいろんなことを吸収して成長していくんだ。すっごく体が熱くなってきた。でもなんで主任は怒るんだろ。わかんない。生理なのかな。年中生理っていうのは私は違うけど、生命って神秘だから、可能性あると思う。一匹目はとなりの主任がゆっくりやってくれるのを見ながらやったらなんか上手にできた。二匹目はぐちゃぐちゃになった。もう主任は主任の領域のお魚をぜんぶサンマイオロシしてて私ドギモむかれた。主任はすばやくお店のエリアに飛び出しておばあちゃんのところに行って、
「体に少しキズがついてましたので、別のとお取り替えしますね。」ってゆっておばあちゃんが
「あら。ありがとう。」ってゆっておばあちゃんと一緒にお魚を二匹えらんで持って帰ってきて
「そんなの出せないから捨てなさい。」ってゆって私ぐちゃぐちゃになったお魚を捨てたら、
「そっちも。」ってゆって私が人生で最初にサンマイオロシしたお魚も捨てて、かわいそうって思ってこれは私がちゃんとサンマイオロシしなかったからだと思って、ぜったいがんばろうと思って、ガンバ、私、ガンバって言いながら主任が一緒にやってくれて私の三匹は主任の領域にあった七匹と合体して十匹になって、おばあちゃんに渡して「あら。ありがとう。」ってゆっておばあちゃんは消えた。主任は
「これからはサンマイオロシもあんたに回すから。」ってゆって
私は
「はい。」
ってゆった。


(つづく)