OjohmbonX

創作のブログです。

たっくんはいない(13)

おじさんにお金を借りようとしたら、おじさんが十二個の英語とか数字が並んでるやつがいるってゆって、よくわからなくてメモしてもらったのが「登記識別情報通知」っていうやつで、その紙に十二個の字が書いてあるってゆうことで、だいじな紙だからだいじなとこにしまってあるよって言われて、私こころあたってたからお母さんがだいじな紙しまってるタンスのところにいったら「登記識別情報通知」っていう紙があってほんとに十二個のなぞの字が並んでて、暗号をひそかに探すってゆうのはすごくFBIみたいで私できる女ってかんじして、それをメモしておじさんに渡したら、これでまたお金が貸せるってゆって百万円をくれた! エジプトにいけるかもしれないと思ったけどお店があるからお休みできない。シャネルの冬の新作のチェーントートとコートを買って、春夏モデルのバッグはまた次のシーズンで買いなおさないといけないから古いやつ、主任にいる?ってきいたらそんな高いのもらえないよってゆうから大丈夫ってゆったらじゃあってゆって主任にあげて、お母さんとデパートのレストランに行ってそんな高いところじゃなくてガストにしようよってゆうから大丈夫ってゆったらたまのことだし、じゃあってゆってエレガントな食事を楽しんで、カレシが前にあこがれるってゆってた自転車がビアンキってゆうやつで二十万円ですごく細くてかっこよくてプレゼントしたらそんな高いの悪いよってゆうから大丈夫ってゆったらじゃあってゆってカレシにあげて、みんなすごく喜んでくれて私うれしい。


2014年11月〜 永久就職(カレシ) 愛は色あせない永遠のブランド


 年があけて落ちついてから主任のおうちにはじめて泊まることになってセックスアンドのシティ2を見て、さばくで男の人が車に乗ってジャンプして出てきたところがすごくて、私エジプトのこと考えてて、顔が透明な主任のダンナさんが帰ってきて、ダンナさんは私より少し小さいけど、すき焼きを食べて、お肉をいくつかお鍋から出してお椀にもって主任は二階にいって、ダンナさんと私は二人でだまってすき焼き食べてて、遠くの方でたっくん、ごはんおいておくからね、今日はすき焼きだよって聞こえて、ダンナさんはずっとネギ食べてて私はずっとお肉食べてて主任とダンナさんと私はテレビ見てて、私おもいだして
「ごちそうさまでした。」ってゆって、主任がテレビを消して、主任とダンナさんがテーブルを片付けて、リビングがすごく広くなって
「本当のエレ女は、ファッションだけじゃなくて社交界で通用するだけの振る舞いを身につけないといけないから、私たち社交ダンスを習ってるの。」って主任がゆって、主任はぴったりしたニットを着てて、ダンナさんはスウェットを着てて、二人がすぅーと近づいていって吸いつく感じでぴたっと社交ダンスの構えになった。私目が離せない。ずっと見てても二人が完全に止まったままで、本当に二人の形が完璧っておもえてきて、音楽もなくて、二人がずっと止まったままでも変ってかんじはぜんぜんしない、ぜんぜん、最初からこうやってずっといる、ずっと前からこんな形で二人いるっていう気になりかけたとき、とつぜん、ぐっと主任の右足がうしろに、ダンナさんの左足が前に、沈むみたいにいったと思ったら、すごい速さでくっくっすーっ、くっくっすーって二人が回り始めて、ほんとにすごい速さ、風が流れてくみたいな、くるくる回って、音楽もない、ただ足の音がトン、トンって聞こえて、服がこすれる音がスッ、スッてするだけで、私目が離せない。何も言えなくなって、ほんとのエレガントって私の目の前にある。今ある。私わかった。ひとつひとつの動きが大きくて、速くて、ほんとに、ここってゆう位置にひじも手も足も体もぴたっぴたっと吸い付いて、吸い付いたと思ったらもう動いてる。おんなじ動きをくり返してるだけみたいに見えるのに、見てると私の気もちがどこかに飛んでいって、私の中から気もちが消えてすごく気もちよくなる。もうずっと見ててもいいって思ってたら、女の腰を男の人が腕で支えて、女が腕の中で反りかえってまた元に戻ったとき、消えるみたいに終わった。
 ちょっとだけ息があらくなった主任が満足って顔して私の近くにきて、私すごいダンス見て興奮して、きゅうに立ち上がったら、主任の前に壁がとつぜん覆いかぶさるみたいになって、主任がびっくりしてこわいみたいな顔して私見ながら後ずさって、私すごいダンス見て興奮してたし、でもその主任が私をこわがってるの見て、私は強いんだって思って、大声で
「もぅーっ!」ってゆって足元にいた猫が
「にゃー。」ってゆったから私、猫つかんで思いっきり壁に投げつけたら、猫は
「ギィーッ。」ってゆった。猫は平気そうだったけど、主任がすっごくおびえた顔で私みて、私はおふろと歯磨きしてリビングのお布団で寝て、主任とダンナさんは寝室で寝た。起きたらダンナさんはもうお仕事にいってて、私が寝る前にお話しするために持ってきてたカマモンを見つけた主任がこれ何って聞いて私カマモンだよってゆって、
「カマキリのモンスター?」
「やあだ主任。やあだー。」ってゆって二人でゴォーッて笑った。主任が
「あんたそれ、ずいぶん汚いし、捨てようよ。エレ女にはふさわしくないと思う。」ってゆって
「そうなんだ。」って私ゆってごみ箱に捨てた。
 アンドのシティ2をイメージした服や靴を買って、春の新作はトラディショナルなスタイルがトレンドなのかな、うれしくなって、かえり道にいつもと違うとこからいこうと思って駅あるいてて階段おりたときに途中で、この階段って先が行きどまりになってるってこと思いだして戻ろうとしたけど、階段の下のほうUターンして平らになってるとこでネイビーのブレザーの制服を着た女と男の子がキスしてて私それ見てた。二人とも私より背が小さいと思う。カップルは融合したいってかんじでぎゅって抱き合ってて、私それ見てたら、男の子の手が女のスカートの中に入っていって、女の手が男の子のベルトを外して、女が男の子に背中を向けて、壁に手をついておしりをつきだして男の子が腰をまえにつきだして女のおしりと男の子の腰がぴったりくっついたりちょっと離れたりすごい速さで繰り返してて男の子も女も苦しそうな顔してて私いっしょうけんめいケータイのカメラでシャキーン、シャキーンって撮ってた。男の子が私に気づいて
「ババアだれだ。」って怒ってきて
「私はのぞみだよ。」ってゆったら男の子がズボンをはいて追いかけてきて私逃げて、今日はいっぱいお買い物するしって思って黒のストレッチパンツにフラットソールのキャンバス地のスニーカーをはいてるから走りやすいけど、服や靴が入った紙ぶくろが大きくて走りづらくて、しゃっと後ろを見たらすっごいこわい顔して男の子が近づいてきてたから、私こどものとき犬に追いかけられてすっごいこわかったこと思い出してた。こわくて泣きながら逃げてて、今も泣きながら逃げてて、今は私もうこどもじゃなくてエレ女だからメイクがくずれてるって思って、どうしてって。何でって。私なんにもしてないのに。犬に追いかけられたときも、男の子に追いかけられてるいまも、私なんにもしてないのに、なんで。どんどんこわい顔した男の子が近づいてくるの見て、私靴のふくろを投げ付けて、男の子が「わ。」ってゆって、走って、地下のみちは混んでないけどぽつぽつ人がいて私たちのこと見てて、どんどん走って、地下のみちの壁にはってある広告がどんどん流れていって、どんどん買い物のふくろをうしろに投げて、階段をかけ上がって、地上の出口にきたとき、私はうしろから腕をつかまれた。なんか、びっくりして、きゅうに力が抜けた。何年ぶり。こんなふうに腕をつかまれる。熱い。力強くて、いたいくらい。そのとき私の目の前を、自転車にのったカレシがさあっと左から右へ走り抜けていった。私には気づかなかったみたい。もう暗くて、街灯のひかりしかなくて、自転車のフレームが濡れてるみたいに光ってた。ほんとに一瞬で流れていって、きゅうに私気持ちが強くなってきて男の子の手を思いっきり振りほどいて、ふり返って
「私しってる。さっきの、セックスでしょ!」って大声でゆって走って帰った。


(つづく)