OjohmbonX

創作のブログです。

朝青龍と私

朝青龍と私のどちらが好きなの」
「あのねえ,いい加減にしてくれる? 普天王と私,琴欧州と私,白鵬と私,栃東と私,朝青龍と私なんて全部の取組でいちいちいわれたら,集中して見られないでしょうが.大体,確かに僕は相撲が好きで,力士もみんなそれぞれ好きで,君も好きだけど,それを比べても意味ないだろ」
「何を苛々しているのですか.魁皇の休場があなたを苛々させているのですか? それは,つまり私と魁皇を比較したときあなたは魁皇をより好むということですね」
「だから,そうじゃなくて,君がそうやってわからないことを言うから苛々しているんだよ.あ,もう,ほら,朝青龍の取組終わってるじゃないか……お,勝ったのか,いや,ううん,さすがに強いな,強い」
「私のリアルタイムの言行があなたを苛々させる一方,リアルタイムでない,リプレイ映像の朝青龍はあなたを興奮させる.やはり私に比してあなたは朝青龍を好きなのですね」
「さっきもいったけど,朝青龍と君のどっちが好きか聞くなんて意味ないんだよ.朝青龍が好き,というか相撲が好きなのと,君が好きなのと,好きの意味が違うんだよ.比較のしようがないんだよ」
「明確な回答を避けることが,あなたが私より朝青龍を愛しているのだと,搦手から雄弁に物語っています」
「ちょっと,もう,勘弁してよ.ほんと,いい加減にしてよ.いっつもいっつも.昨日も僕が料理していたら,魚を洗うのと私のどちらが好きなの,なんて! あのねえ,別に僕は好きで魚を洗ってたんじゃないんだよ.ぬめりを取るために,洗ってたの!」
「では,魚のぬめりを取るのと私のどちらが好きなのかしら」
「だから,さあ,必要があるから,やっただけで,好きとか,そういうことじゃ,ないんだよ!」
「好きではなくても魚のぬめりは取るのに,私のぬめりは取らないのですね.必要がないから.私のぬめりより魚のそれを好むのですね」
「ぬーめーりー! 僕が,君の,ぬーめーりーを取ーるーのーかっ! 第一,君は,全然ぬめって,ないでしょ,好きとかじゃない,って,いってるだろ!」
「やはり私のぬめりを愛していないのですね」
「何なん? 何なんのぬめり? 違う,ああ,馬鹿なの? 馬鹿なの?」
「『馬鹿』な私でも,あなたが結局明快な回答を避けている,つまり,あなたが私よりも朝青龍に愛を多く注いでいるのだということを知っています」
「嫌いですから,全然嫌いだから,もう,一生,見ないから朝青龍とか相撲とかそういうあれを見ないから全然ほんと,もう,やめてください勘弁し」
「いいえ違います.それは嘘です.先ほど朝青龍の一番をご覧になって興奮していたあなたにとって,それは真実ではあり得ません.あなたは蠱惑に満ちた朝青龍のぬめりに魅了されているのです」
「僕は,君を,君だけを好」
「あなたはいつか必ず,私を見捨てて朝青龍のぬめりを取りに行くのに違いないのです.私を見捨てて」
「ああ,もう,あぁあああああああ