OjohmbonX

創作のブログです。

 あるファーストフードの店のレジで,僕の前で応対を受けていた若い外国人女性客に,カウンターから少し身を乗り出して開いた右掌を口の横に添えて大声でゆっくりと「ドリンクはひとつでいいですか?」と言う店員がいた.店員が一度訊いてその女性が理解し得なかった為言い直したようだが,その女性は別に耳が遠くて聞き取れなかったわけではないだろうに.


 業務のあまりの忙しさに店員がおかしくなった・正しく判断し得なかったのだと推断した僕は,店員の手助けをしようと決意した.
 僕は手話で素早く「どりんくハ ヒトツデ ヨロシイデスカ?」を表した.だって,手話は万国共通だから.すると外国人女性客は「ヒトツデ イイデス」と速やかに手話で返す.もちろん僕は怒り心頭.怒髪天を衝く,つまり僕の髪は逆立ち伸びて店の天井を突き破る.貴様日本語わかるのではないか,かまとと!
 僕が「ドリンクは,ありったけ」と言うと店員は一瞬呆気にとられて,すぐににたり.「ドリンクは,何に致しますか」「もちろん,コーンポタージュ」僕が言い終わるより少し早く,ひらりとカウンターを飛び越え女性を抱えてひらりと戻る店員.女性の口は強制的に開かれ,コーンポタージュが流し込まれる.機械からダイレクトに! 女性は,きっと一旦口にした物を出してはいけないと躾けられたのだろう,飲み込み続ける.しかし人間には限界がある.お前の限界は,どうだ? キャサリン! と僕が声に出さずに叫ぶと同時にキャサリンは「モウ無理 モウ無理 私ハきゃさりんジャナイ」と手話で.「にせキャサリンかよウゼエエエェェ」と呟いた僕の後ろのおばあさんの白髪も見事に天井を突き破っている.どちらにせよ,「無理」と言われても髪が天井に固定されて動けないので,僕にはどうしようもないのにせキャサリン
 おもむろに股間からポタージュを噴出させ初めて「ア 解決シマシタ」とにせキャサリン.「それって解決してるのか?」と心中で皆突っ込むのが分かる.それにしても,店員が始終マック・スマイルを忘れないのは,さすがだ.


 何時間経ったのだろう.ポタージュが膝の深さに.店員はマック・スマイル,にせキャサリンは管,後ろの老婆の白髪は元の長さに戻っている代わりに乳房が垂れすぎている.どうやらポタージュの出るのと,乳房が垂れるのを競っているらしい.僕も負けてはいられないので,髪を伸ばし続けている.しかし,緊張感はない.
 いつになったら,店員は僕の注文を聞いてくれるのだろうか.