OjohmbonX

創作のブログです。

男子高校生たちのホワイトクリスマス

「なんて書いてほしい?」
「いや,……そんなことを聞くのはおかしくないか」
「えー? だってお前,誕生日プレゼントとか欲しいもの先に聞いとかないと,怒るじゃんか」
「それは,俺が何も言わないとお前が手裏剣のレプリカを毎年贈るからで,それに,別に俺は怒ったことはない」
「んー……まあ,とにかく,できたから,はい」
 私宛の年賀状を私の目の前で書いて元日の1週間前に直接私に渡す彼の意図を,私は全く得心し得ないながらも,何となく嬉しくなってしまうのだから始末に終えないと,思わず苦笑しながら渡された年賀状(?)を見つめていると,それが今年(平成17年)の「お年玉付郵便葉書」であることに気づいた.ますます意図がわからない.
「今年出すんだから,今年のに書くのは当たり前だろ.だいたい,俺はお前の為にわざわざ2等の当選葉書を使ってやったのに,文句があるなら返せ!」
「もったいない! デジタルカメラとか腕時計とかと交換してもらえたのに.商品引換えの期限が7月くらいまでだと,知らなかったの」
「馬鹿にするな! そんなこと,知ってるよ,だから,この葉書はデジカメとか時計なんかと同じ価値があって,そんな価値のある葉書を,俺が,わざわざお前に,どうしてお前は,俺の,この莫大な愛を」
「ちょっとぅ,あんたらさっきからうるさいんだけど静かにしてく」
「うるっさいのはお前なんだよ,ブタ鼻男! お前のブタ鼻のせいで前が見えなくて年賀状書くしかなかったんじゃないか!」
 違う.確かに振り向いた彼の鼻は多少吊り上ってはいたが,そんな身体的特徴を責めるのは不当である.そうではなくて,巨大アフロだ.彼は,私たち以外に客のいなかった映画館で,わざわざ私たちの前へ座ってその巨大アフロで私たちの映画鑑賞を阻害したのだ.私たちが席をずらしても,彼も同様にずらす.一旦腰を上げて目的の席へ再び腰を下ろすという垂直の動作なしに,ただ巨大アフロが地面と水平にスライドしているように見える彼の動きが,私たちを恐怖させた.さらに,一度私たちが席を移動するごとに,巨大アフロが倍化されるのだ.最初は1つだったのが,2つ,4つ,8つ……すぐに館内は巨大アフロで満たされた.私たちのできることは,もはや,年賀状を書くことだけであったのだ.
「さっきあんたら,2等の葉書がどうとか,ああ,これね,これで許してやるよ」
 私は巨大アフロの人にすみやかに年賀葉書を渡した.
「お前,俺の愛の凝縮を!」
「この葉書があんたの愛? じゃあ代わりに,俺の愛をやるよ」


 映画館を出ると,雪が降り積もっていた.
「ホワイトクリスマスだね」
 両手いっぱいの巨大アフロを私たちは抱えていた.
 風が吹いて私の巨大アフロは空中にふわっと舞って,雪の上に落ちた.雪の白と巨大アフロの黒のコントラストの美しさといったらなかった.明日になれば,巨大アフロは溶けた雪や土にまみれ,通行人に踏まれるのだろうと想像してみたけれど,悲しくはなかった.なぜなら私たちの心には,巨大アフロという名の愛が満ちていたから.