OjohmbonX

創作のブログです。

自戒

 掃除当番など無く誰も片付けないためにゴミ箱の容量を遥かに超えて上に山盛り周りに散乱している教室のゴミを片付けている僕の脇を通って席に着いて歓談などをしている人たち.教室に来てみると誰もいなくて次の授業の開始時刻まで20分あったから,前から気になっていたゴミを掃除しようと隣の部屋から新しいポリ袋を探してきたり混在している缶やペットボトルを分別したり箒で掃いたりしているうちに,ぽつぽつと集まり出した人たちは,僕が好きでこんなことをしているとでも思っているのだろうか.ゴミ箱の中から取り出そうとしたポリ袋の穴の開いたところから飛び出たチョークの粉が買ったばかりの靴にかかって,がっかりしながら,しかし彼は,彼の精神は,彼に見て見ぬ振りを許さないだろうと,いくつかの場面を想起しながら,思った.
 彼は面倒な事を積極的に引き受けることが多くあったが,それは,かえって自分の得になると見做して強いてしている風ではなくて,彼の気質のせいであるように見えた.教室の机を片付けねばならなかったときに彼は自分の分が済んだ後も他の人のを手伝ってやっていたということがあった.それから……彼の前を歩いていた人がつまづいたためにめくれた出入口のマットの端を,通り際にさりげなく足先で直したということがあった……確か,その直前の,大講義室での授業の始まる前に,通路の真ん中にあった椅子を,邪魔に思ったのか,いきなり蹴飛ばして,その脇の席に着いたやつがいた.そいつの真後ろに歩いていた僕は,そいつの目の前で,倒れた椅子をこの上なく丁寧にあるべき場所に戻してから横目でそいつをちらりと見たら,笑っていた.恥じて苦笑していたのではなくて,何を馬鹿なことをしてるんだ,というような顔でそいつは僕を笑っていたのだった……
 そんなことを思い出して苛々していたところ,最後に教室に入ってきた彼は,果して無言で床に落ちていたゴミを片付け始めた.そして,ポリ袋を新しく用意して別に退けておいた空き缶を入れ始めたところ,やはり黙々と入れるのを手伝った彼の目を見つめて,僕は,まばたきによるモールス信号で彼の精神を賞賛したく思ったけれども,あいにく僕はモールス信号を知らなかったので止しておいた.空き缶を片付け終えたところで彼がまだ何か手伝う素振りを見せたので,ありがとうと,暗にこれ以上の手伝いの不要を言って,汚れた手を手洗いで洗いに行って,多少さっぱりした気持ちになったのだけれども,授業中に,中学生の僕と他のある生徒が給食当番として二人で重い食器か何かを廊下で運んでいるときに,僕の目の前にいたこれも重い何かを運んでいた給食当番の生徒が,廊下の棚の中の物を引っかけて落としたが気づかなかったらしくそのまま歩み去った.僕はそれに気づいたけれども,その落ちた物は特に往来の邪魔になるような物ではなかったし,一度荷物を床に下ろしてから落ちた物を拾って棚に戻すのが難儀だったので,そのまま通り過ぎようとしたら,後ろから,お前らはそれを落としたくせに拾いもせずに何を行き過ぎようとしているのか,という意味のことを苛立ちをあらわにしながら言った教師がいた.僕らが何か言おうとしたときに,通りかかった(給食当番でない)生徒がそれを棚に戻したところ,その教師は,親切な○○(通りかかった生徒)がお前らの代わりに拾ったのだから礼を言ってさっさと行け,という意味のことを言ったのを思い出して,今の自分なら,自分たちが落としたわけではないこと,なぜ僕らが落としたことに気づきながら拾わないのだとあなた(教師)は決め付けて,僕らが落としたことに気づいていないのだと思わないのかということ,なぜ手ぶらで立っている暇なあなた(教師)がまず拾わないのか,ということを言うのに,あのときは結局何も言い返せなかったのを悔しく思いながら,授業が終って外のゴミ置き場に捨てに行こうとゴミの入った袋を手にとって教室を見やると,昼飯を食らいつつ歓談している人たちがいて,僕も(少なくとも僕の知る限り)手伝ってくれた彼もここのゴミ箱をほとんど利用していないことを嬉しく思った.