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創作のブログです。

嫉妬

 ぎょわんぎょわん
 ボタン電池を買いにきて,自分は揉まれていたのであった.首を,肩を,背中を,ふくらはぎを.昼下がりの閑散とした家電量販店のマッサージチェアー・コーナー.左斜め前でじじいが揉まれて居るだけ.ぎょわんぎょわん.静かに,ただ揉まれて居るだけ.
 揉まれながら,脇にあったパンフレットを手に取り眺めてみる.「中央部のバイブが肛門付近の指圧ポイントを程よく刺激」,「音声認識機能を搭載」…….つまり,どうぞ私の肛門付近の指圧ポイントをあなたのバイブにより程よく刺激してください,と囁くなり絶叫するなりすれば,いい.しかしあいにく自分のチェアーは肛門用バイブも,音声認識機能もついていないのであった.ついているのは,じじいのチェアーだけ.じじいは,刺激されているのだろうか.
 ぎょわんぎょわんぎょわん……ぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっ
 体をのけぞらせ,下唇をつぼめて眉根を最大限つり上げて,おひょー,てな顔で.ひたすら,耐えて.
 店員がマッサージチェアー・コーナーの前を通り過ぎる.
 ぎょわんぎょわん
 なんだったのか,今のは.突如として自分の背中に信じ難いこそばゆさを与えた,チェアーの意図.嫉妬.なのだろうか.肛門バイブ搭載チェアーへの心移りがチェアーをぎょっぎょっぎょっぎょっぎょ
 反射的に体がのけぞって.おひょーの顔で.ふくらはぎはがっちり固定されている.ぎょっぎょっ,ぎょわんぎょわん
 こそばゆさが笑いを誘い,笑いが笑いを誘い,にたにた笑いが止まらなぎょっぎょっぎょっぎょっ
 店員がマッサージチェアー・コーナーの前を通り過ぎる.
 見てんじゃねえ,笑いごとじゃねえ,ぎょっぎょっ,は,は,ぎょわんぎょわんぎょわんぎょわん,ようやく息をつく.
 しかし,なん,だ,周期が短くなっぎょっぎょっぎょっ
 ぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっぎょっ
 じじいーっ,耐えられんぞ,俺はーっ!!
 にたにた笑いを笑いながら自分は激怒してチェアーの息の根を止めた.しゅぅーん,と静かになるチェアー.ふくらはぎが解放され,拷問の如きこそばゆさからも解放されて自分は,靴も履かずにすばやく前列のチェアーに回り込んだ.じじいはただ静かに眠っていた.肛門付近を程よく刺激されながら,おだやかに眠っていた.


 先週の金曜日のことであった.

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