OjohmbonX

創作のブログです。

訪問先の会社のエレベーターで

 あ,屁のにおい,と思ったら前にいた女が俺をちらっと見た.非難するように俺を見たんじゃなくて,ちらっと見た.そうやってこの女はこれまでも,そしてこれからも乗り切っていくつもりだろうが,そうはいかない.
「有史以来,人は屁で空を飛ぶことを夢見てきたというのに,この女ときたら俺に屁をなすりつけやがった!」
 偉大な人類と屁ひり女の見事な対比.思い切り女を指差して,『だろっ!』って感じで隣にいた男の顔を見たら,男は階数表示盤を見つめ続けていた.どうして俺と目を合わせない.
「ですよねぇ」
 これ以上コトを荒立てたくないから,ここは引いておくことにした.女は気まずさに耐え切れなくなったのか次の階で降りていった.勝った! と思ったのもつかの間,若い男が入れ替わりに乗ってきて『あっ』という顔をした後,俺を見て,『どうも』なんて感じでへらへらぺこりと頭を下げた.どういうことだ.確かに俺はさっき,みみっちいすかしっ屁を女のせいにしようとしたが,本当の俺の屁はあんなもんじゃない.
 俺は焦った.早くしないとこいつらが降りてしまう.俺のすごさをちゃんと分からせてやらないといけないのに.下っ腹に思い切り力をこめたら,ブリブリブリィという音がして尻がひんやりしてきたので,あ,これはぎりぎりアウトだなと思った.