OjohmbonX

創作のブログです。

役割分担

 喫茶店でアイスコーヒーを注文したのにいつまで経っても出てこなくてイライラしていたら,15分経ってしなびきったウェートレス老婆が
「母乳ですけど……」
といって申し訳なさそうに生ぬるい母乳(?)の入ったコップを俺の目の前においた.びっくりしてウェートレス老婆を見たら
「いやあ,あたしゃあ,もう出ませんから」
とはにかんで答えた.違ぇよ.んなこと考えてねぇよ.頬を赤らめながらカウンターをちらりと見たウェートレス老婆につられて目をやると,ぱんぱんに張りきったおっぱいの女の人がいた.
「えへへ,孫の嫁が,店を手伝ってくれててねえ」
「いや,……アイスコーヒーをください」
 ウェートレス老婆は愕然とした様子で「しぼりたてなのにっ!」と短く叫んだ後,母乳をひっこめて,氷がとけて薄まったアイスコーヒーを置いた.最初からそれを出せよ.
「あのぅコーヒーにミルク……母乳ですけど御入り用……」
「いりません」
「しぼりたてだよおぉぉぉっ!!」
 しぼりたてだから何なんだよ.ウェートレス老婆はひっこめた母乳を足元のバケツに捨てた.バケツにはなみなみと母乳が波打っていた.こんなにたくさん出したのか? カウンターに目を移したらおっぱいの女の人が,腰を落としてがに股で,あらわにした両乳をむんずとつかんで母乳を噴射させていた.棒状にまっすぐ,地面と水平に噴射される母乳のゆくえを追っていくと5メートルほど離れたテーブルの上に座っている赤ん坊の口の中だった.こんな授乳の仕方,アリか? ダメだろ!
 あんたんとこの嫁,大変なことになってるぞ,と言おうとウェートレス老婆に向き直ったら,老婆の顔中に白い線が光っていた.よく見るとシワというシワに母乳が蓄えられているのだった.
毛細管現象のおかげで,うまいことシワが母乳を吸い上げてくれてねえ」
 ウェートレス老婆の左足はバケツの中だった.あり得ない.物理法則その他を無視している.抗議しようとしたが「あばばばばばば」とまともな言葉にはならなかった.乳ビーム女が俺の開けた口めがけて乳を噴射させているからだ.なんとか避けようと顔をそむけるのだが,そむけた先には別の乳ビーム女が待ち構えていて母乳を噴射させる.「やめてー」と言おうとするが「あばばばばば」になるし,別のバケツに足をつっこみながらシワに乳を蓄えたジジイが「女房と店がお世話になっております」なんていつの間にか目の前にいるし,女は眼球も容赦なく狙ってくるし,店中シワに乳ためた常連客のジジイババアだらけだし,よく見たら俺の母親も参加してるし,乳ビーム女たちに周りを囲まれて集中砲火を浴びせられるし,乳ビーム女の一人は俺の嫁だし,お乳を欲しがって子供は泣くし,なにがなんだか,どうにでもなれと思って,俺は,着ていたシャツをひっちゃぶいて,自分の両乳を力の限りもみしだきながら,叫んだ.「しぼりたてだよおぉぉぉっ!!」


 するとみんな小声で「そりゃあないわ」「空気読めよ」「あなたやめてよ」「超しらける」「息子が馬鹿ですいません」「お客さん,困ります」「なんだよ」「あーぁ」などと口々に言いながら帰っていった.店は静かになった.右の乳首からすこしだけ乳が出ていた.それを指ですくってアイスコーヒーの中に入れて飲んだ.俺も乳をいっぱいだして,シワで乳を吸い上げたいのに,と思った.