不器用ですから！

　誰かに頼まれて人の写真を撮るというのがどうにも苦手で，それは「はい，チーズ」とか「じゃあ撮りますよー」とか何とか言うのが恥ずかしいからです．
　この前，近所の川ぞいの遊歩道を歩いていたら一人の見知らぬおばあさんが僕に，川と木を背景に自分の写真を撮るよう頼みながらコンパクトカメラを差し出してきたので迷わず手刀で叩き割りました．おばあさんを．そうしたらおばあさんは真っ二つに割れて中からモスラみたいなおばあさんが出てきてどこかに飛んでいきました．
　そんなことはどうでもいいんですけど，100円ショップで，二人とも上下グレーの無地のスウェットを着たサンダル履きのカップルの男の人が，僕に携帯電話をつきつけながら「ちょっとお前写メ撮ってよ」と言いました．100円ショップで恋人とのツーショット写真を撮って欲しがるのはもちろんアホだからなので，この男の人は「僕たちはアホなんですけど写真を撮ってくれませんか？」と言わなければならないのに，顔がびっくりするくらい黒いもんだから，僕はびっくりして，受け取った携帯電話のレンズをカップルに向けながら
「はあい，じゃあ撮りますよぉー，アーキャッキャッキャッキャアーッパパパパパパパ」
パシャッ！
と上手に写真を撮りました．画面でいま撮った写真を見てみると，カップルはあっけにとられた顔をしていて，ああよかった，上手くまぬけな顔になったなあ，これだけ被写体本来の表情を引き出すことができれば及第点だ，とおもってカップルに目を向けたら「おめーなにやってんだよーっ」と男の人がなぜか怒っていたのでびっくりして，
「これがおまえの分だー！！」
と叫びながら無我夢中で男の人の口の中に携帯電話をつっこみました．女の人（やや黒い）が「ヒィエーッ！」と言いました．あわわ，これじゃあ不公平だ，カップルなんだもの！　と思って，来る途中の遊歩道になぜか落ちていたので拾っておいたコンパクトカメラをポケットから取り出して
「これがおばあさんの分だー！！」
とちからいっぱい叫んで女の人の口の中にインしました！　周りに人だかりができていたので「そっとしておいてあげてください，カップル水入らずにしておいてあげてください」とアフター・ケアーをしてから，僕は一人，雑踏の中へと姿を消した……

　これが，僕がデジカメを作っているメーカーに就職しようと思った理由です．