OjohmbonX

創作のブログです。

さようなら愛した人よ

 また性懲りもなく母が送ってきた見合い写真を見てみたら、パイプ椅子の写真だった。35歳の行かず後家だからってパイプ椅子はねぇだろ。どういうつもりなのかと思って見合いをしてやった。
 パイプ椅子の両隣に座っていた初老の男女は、自分たちはパイプ椅子の両親だ、と言った。おいババア、貴様のマンコからパイプ椅子が生まれたっつぅのか、と問い質してやろうとしたらジジイが先手を打ってきた。
「私らには子供ができませんで……養子なんです。もちろんご存知とは思いますが、念のため」
 そんな設定、知るか。
「ええと……ご趣味は……」
「うちのパイプ椅子は、たたまれたり、開かれたりするのが好きかしら」
「…………休日は何をなさいます?」
「そうですわねえ、座られることが多いですわね」
「さきほどからパイプ椅子さんは全くお話してくださいませんけれど、私のことがお嫌いなのでしょうか」
「いえ、いえ、お気を悪くされないで、シャイなだけですのよ」
 だったらシャイじゃねえパイプ椅子を見せてみろよ。いい加減なことを言うんじゃねえ。
「さて、あとは若い者だけで。私らはそろそろ」
 レストランの一隅に晴れ着姿の30半ばの女とパイプ椅子が取り残されるってどんなシチュエーションだよ。罰ゲームか? ジジイどもが帰った直後にたたんだパイプ椅子を抱えて店を出てそのまま家に帰った。(次の日、2ちゃんねるのオカルト板に「ふりそで着たババアがパイプ椅子引きずって商店街をすごい迫力で歩いてた」「俺も見た」「見た見たwwwマジオカルトwwww」などと書かれていた。世の中には変わった人がいるものだと思った。)
 帰宅直後に母に電話して言ってやった。
「すごく気が合ったから結婚することにしたよ」
「あらー本当? よかったわーちょうど今パイプ椅子さんのご両親とお食事しているの、お母様とかわるわね」
「タカコさん、いきなりでビックリしちゃったけど、嬉しいわあ」
「パイプ椅子さんとお電話かわりましょうか」
「それはいいです」
 こっちがノッてやってるのに突き放しやがった。
「じゃあ、お母様にお電話お返ししますね」
「ほーんと、タカコが結婚してこれで私も親戚に顔向けできるわ」
「結婚式、どうしようか」
「あんた馬鹿なの? パイプ椅子と結婚式やるの?」
 …………。
 なぜ私が非難されるのか。付き合ってやってるのは私のほうなのに。
「じゃあ、婚姻届だけ出すってこと……?」
「はあっ? パイプ椅子との婚姻届なんてどうやって出すっていうの?」
 電話の向こうで笑い声が聞こえた。もう許さん。
「ああん、あたしぃ、今、パイプ椅子さんに座ってるのぉ」
「タカコ?」
「クッションがとっても黒くてぇー……硬いのぉ」「たたんだりぃ、開いたりぃ」「背もたれがぁ、あたしの唾液でべったべた♪」「ああ、ダメ、心が、タカコの心が満たされますぅー!」
 電話を切られた。


 3日後、私の夫はヤフオクにて3800円で売れました。