OjohmbonX

創作のブログです。

その後、官憲の世話になる物語

 その若い男性社員は、上司に叱られていた。
Wikipediaは、そのシステム(というより、スタイル)であるWikiと、百科事典を意味するencyclopediaを組み合わせて命名されたのであるから、これをWikiと略すのは適当でない」
「すみません。ほんとうに、すみませんでした。これからは、Wikipediaのことを、Wikiっていいません」
 若い男性社員は、いまにも泣き出しそうな顔をしていた。上司同様、WikipediaWikiと略すことに感心できない私だが、私はその若い男性社員に好意をよせていたため、ここはあえて――それが詭弁でしかないことを自覚しつつ――彼を弁護することに決め、上司の前に進み出た。
「……実は、略称ではないのです。かつて、たんに『花』といえば桜を、『祭』といえば葵祭を、『山』といえば比叡山を意味したように、彼は、集合を代表する要素・Wikipediaを、集合の名・Wikiで呼んだまでなのです」
 上司は激しく動揺しているようだった。
「な、何だね、君は?」
「ぼくですか? ふふ。ぼくは、今朝、電車の中で見かけた彼がとてもイケメンだったため会社まで尾行しただけの、ただの男子中学生ですよ」
 キマった、と思った。