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OjohmbonX

創作のブログです。

ディーァヴィッシュ

 散歩していたら20m先でランニングシャツにハーフパンツにサンダル、頭はバーコードの見知らぬおっさんが俺に向かって大声で叫んでいた。
「ヘーイ、ダルビッシュ! デァーヴィッシュ! カモーン、クァ、モォーン!」
 俺はダルビッシュじゃない。似ても似つかない。
「ノゥ! アイ アム ノット ダルビッシュ!」
「ダァヴィッシュ……」
「アイ アム 小林、ア ジャパニーズ ステューデント」
 本当は会社員だ。しかし会社員を何と言うのか知らないからしかたがない。
「ヘーイ、カモーン、ダァヴィッシュ!」
「ノゥ! ゼア イズ ノー ダルビッシュ
「ダァヴィッシュ……」
「イェス、ウィ ハヴ ノー ダルビッシュ
「ダァヴィッシュ!」
「ユー マスト ギヴ アップ ダルビッシュ
「ノォォゥゥゥゥ」
 おっさんは目に涙を浮かべていた。騒ぎに集まったヤジ馬たちからは「おっさんをいじめてひどい」、「もうお前がダルビッシュでいいじゃん」という声が聞こえていた。俺ももうダルビッシュでいいかなという気になっていた。
「ソーリー、オフ コース、アイム ダルビッシュ
「イヤホォォォゥゥゥゥッ!」
 おっさんの喜ぶ顔を見て俺はうれしい。みんなもうれしい。これで丸く収まった。ヤジ馬たちからは拍手が沸く。
 沸いたかと思った拍手が急にやみ、静まり返る。何かと思って振り返ったら、本物のダルビッシュが、いた。
「俺はたまたま通りかかったダルビッシュですけど……」
 本物のダルビッシュはすごくイケメンで、ピッチャーのオーラがムンムンだった。
 おっさんは混乱をきたし始めた。
「ゼァ アー トゥー ダァヴィッシズ。ノゥ! オンリー ワン ダァヴィッシュ! でもここにツー ダァヴィッシズ。ふしぎ!」
 本物のダルビッシュは、しばらく何かを考える様子を示した後、明るく言った。
「いや、俺の勘違いでした。彼がダルビッシュで、俺はダルビッシュではありません」
 おっさんは平静を取り戻し、幸福そうな顔で去っていった。空気の読める男、ダルビッシュ。観衆は大いに沸いて、彼を祝福した。


 こうして俺はダルビッシュを譲ってもらうことになり、とんとん拍子で日本ハムのピッチャーになれたが、3イニングで解雇された。(キャッチャーミットにボールが届かないため。)
 そして5日後、サエコ
「よく見たらダルビッシュじゃない!」
と言って俺のもとから去っていった。


 俺はすべてを失った。俺は、俺の人生をメチャメチャにした張本人、ダルビッシュへの復讐を決意した。
ダルビッシュー! ダルビッシュー! いるー?」
「ごめんねぇ、いまダルビッシュお風呂に入ってるのよ」
「じゃあ中で待っててもいいですか」
 ダルビッシュのお母さんはとても優しそうな人だった。中で待っててもいいと言ってくれたから、俺は浴室の中で待つことにした。立ってシャワーを浴びるダルビッシュは、すごくイケメンだった。イケメンすぎて、Hey! Say! JUMPに入れるんじゃないかと思った。
「無理だよ、だって俺は、平成生まれじゃないから」
「そんなことないよ、ダルビッシュはイケメンだから、なれるよ!」
 本当になってしまった。長身と得意のスライダーを生かして、平成生まれでないというハンデを見事に乗り切った。俺を振り返ることもなく、ジャニーズ事務所に行ってしまった。


 俺は取り返しのつかないことをしてしまった。ピッチャーの地位とサエコのみならず、とうとうダルビッシュまで失ってしまった。失ってはじめて気がついた。俺が本当に必要としていたのは、ダルビッシュだったということに。
 しかし俺にはまだ、ダルビッシュのお母さんがいる!
「ごめんねえ、おばさん明日、お友達と食事に行くの」
 俺は取り返しのつかないことをしてしまった。とうとうダルビッシュのお母さんまで失ってしまった。