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OjohmbonX

創作のブログです。

21世紀はまだ始まったばかり!

「お嫁さんが欲しいな」
と俺が言うと先輩は
「ちょうどいい人がいるから紹介するよ」
と翌日、しわくちゃの小さいババアを連れてきた。
「誰?」
「おヨネさん」
「松浦ヨネです。どうぞよろしくお願いします」
「じゃあ後はお二人で」
 先輩は帰っていった。しばらくしてからヨネは
「終電、なくなっちゃったね」
と言った。終電がなくなっちゃったのはしょうがないから、家に連れて帰った。その夜、ヨネは眠るように静かに息を引き取った。老衰である。享年98。大往生である。
 ヨネの火葬の帰り道、俺は昨今珍しいオヤジ狩りに遭った。俺はまだ19なのに。人通りの少ない裏通り、ビルを背に若者に取り囲まれた。殴られる、と覚悟を決めたそのとき、頭の中に声が響いた。
「あたしの愛した最後の男。救ってみせる」
 若者たちは蒼白の顔で唖然として俺の頭上ら辺を見上げた後、一散に逃げ出して行った。俺も後ろを振り向くと、ビルの壁一面に、白目を向いて鬼の形相の巨大なヨネの顔が浮かび上がっていた。あまりの衝撃に俺、ショック死。享年19。
 極楽にいたヨネは、霊魂であるという特殊な地位を悪用し現世の善良な一般市民の少年を殺害せしめた罪により、地獄の底に突き落とされた。しかし不屈の精神でヨネは地獄から這い上がってきた。そしてそのまま極楽に乗り込み、仏の殲滅に取り組んだ。もちろん仏たちも善戦した。特に千手観音との戦闘は熾烈を極めた。だが最終的に、ヨネは千手観音の千の腕を容赦なく全てもぎ取り、倒した。せんとくんもいた。角を引っこ抜いたら死んだ。そうしてヨネは仏どもを殲滅し、自らが仏の座に就いた。まさに成仏である。悟りを開くのではなく、腕力で成仏するなど空前絶後である。ヨネはこのサクセスストーリーを執筆、出版した。自伝『だから、あなたも死にぬいて』は50万部のベストセラーとなった。
 平穏な日々を取り戻したヨネは、しじみの貝殻をそっと耳にあてて呟いた。
「こうしていると、波の音がきこえるの……」
 本当はしじみの貝殻から波の音など聞こえてこなかったが、こうしているとテンションが上がるのだった。ロマンチックなあたし、すてき。ヨネはもうちょっとロマンチックなことを言ってみたくなったので、言った。
「ああ、あの人に、もう一度あいたい」
 気を利かせて手下が一人の男を連れてきた。
「ヨネ!」
「誰?」
 シゲオである。ヨネが1930年代に愛していた男である。
「あー、そっかあ、シゲオかあ。そんな人いたなあ。オオッ、急に愛してきたワァッ……!」
 ヨネはテンションが上がってきた。二人は駆け落ちした。仏の座も極楽も迷わずかなぐり捨てて、二人は地獄の底まで堕ちていった。しかし幸せだった。幸せ過ぎてヨネは、60年ぶりにお乳を出した。地獄の底で、お乳を出すヨネ。
 愛する者のためならば、最高の地位でさえあっさり捨て去り、お乳さえ出す。我々も見習いたいものである。