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OjohmbonX

創作のブログです。

ヤクザはこわい

 電車で大柄なヤクザが眠りこけてた。混んでるのに脚をでーんと投げ出して迷惑だなあとみんなが思ってるに違いなかった。ぼくはちょうどヤクザの前に立ってる乗客だったから勇気を振り絞って、ヤクザの人の、先がとんがった革靴と、すべすべした生地の靴下をそっと脱がせて、足の裏をこちょこちょした。規則正しい寝息が一変、「グフゥッ」と息を詰まらせてヤクザは跳び起きた。ぼくはヤクザに怒られそうになったから慌てて自分の靴と靴下を脱いで、「では私の足もこちょこちょして下さい」とヤクザの膝に足をちょんと乗せた。
「な、なん、どういうことだよ」
 ヤクザはびっくりしてた。ぼくもびっくりした。
「決まってるじゃないですか。私があなたをこちょこちょしたからあなたはお怒りになっている。だから、次はあなたが私をこちょこちょすれば怒りは収まるって寸法です」
「はあ? 意味がわから」
「分からなければ結構。そうしてあなたは、満員電車で忌み嫌われて、一方的にこちょこちょされる男として一生を終えればよろしい」
「よ、よぉーし。てめぇ、覚悟しろよ」
 ヤクザの人はぼくの足裏をこちょこちょし始めた。
「いひぃ、いひぃ」
 すごくこそばゆかった。
「いひぃ、ひぃ、こそぐったいよー。こそぐったいよー……こ、こそぐったいって、言ってるだろうが糞ヤクザぁぁあ」
 ぼごぉ。
 殴ったら、ヤクザの歯が飛んでった。
「うわ……。歯、とれちゃったね」
「とれちゃたね、じゃねえよ、てめぇ、どうすんだ、どう落とし前つける気だよこの野郎」
「でも、殴ったから私の手も痛いもん」
「こっちは歯ぁ、折れてんだろうがぁああ」
「おや? 御存知ありませんか。刑法を。『一般人男性がヤクザを殴り、ヤクザの歯が消失した場合、一般人の殴った手も痛いので、しょうがない』とあります。刑法第二兆条にね」
「刑法そんなにねえだろこの野郎ヤクザなめてるのか殺すぞ」
「うるせぇ、ちょっとサバ読んだだけじゃねぇかこの野郎。ほんとは第三千八百八条だ!」
「お、おぅ……?」
「そんなことより、くすぐったかったぞ!」
「くすぐってんだから当たり前だろ」
「そっか。じゃ、しょうがないです」
 で、また再開した。
「いひぃ、いひぃー」
「コノヤロ、覚悟しろコノヤロ」
「こそぐったいよぉー無理ー。むりー。もぅむりー。やめてー」
「てめぇコノヤロ。俺はヤクザだコノヤロ」
 無理だからやめてって言ってるのにやめないから、ぼくは怒って、さっきの革靴のとんがり先っぽでヤクザの頭を突き刺した。
「ぐぇ」
「わ、ごめん! ほんとに刺さるとは思わなかったです!」
「コノヤロもう許さねぇコロス」
 追いかけてきたからぼくは逃げた。なんかわかんないけどいつの間にかぼくたちの車両だけ空いてたから、鬼ごっこみたいのができた。駅に着いても誰も乗ってこないし。そしてドアーが閉まった。ヤクザが窓越しにホームをしばらく見てから「うを!」と叫んだ。降りる駅だったみたい。乗り過ごしちゃった。かわいそう。
 ぼくはヤクザをなぐさめた。
「ま、私は次の駅だけどね。ドンマイ!」