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OjohmbonX

創作のブログです。

続・ミカコのコンカツ!

「デブデザイナー……と」
「違います、ウェブ、デザイナーです。フリーで活躍し」
「はいはい失礼しました。無職、と。これで登録は完了しました。またご連絡差し上げますので今日はお帰り下さい」
 そう、あたしが噂のミカコ。128kgで一流のアラフォー。登録を済ませて、あとは家で待つだけだ。


 帰宅して仕事の仕上げにかかる。一流企業からの依頼だ。パソコンのFrontPage Expressを起動し、あたしのホームページ作品を読み込む。Tableを駆使した洗練されたデザインがあらわれる。ほれぼれする美しさだ。マウスポインタやスクロールバーのデザインも凝ってるし、ポインタを載せると画像が変わったり、GIFアニメ、フレームなんかの最先端の技術をふんだんに利用している。
 あたしのウェブデザイン力は業界でピカ一だ。だからこの前Wikipediaに「ミカコ」って項目を自主的に作った。すぐに消された。世界が嫉妬するあたしの才能。
 ホームページをたずさえて、あたしは出発した。クライアントの驚く顔が目に浮かぶ。
「その、びっくりは、しますよ。だって今年は2009年ですよ」
「知ってますよ! ひつじ年でしょ」
「丑年です」
「でも私、動物占い、羊ですけど」
「知りませんよ、世間は丑年です。ともかく、あなたに依頼したのは我々のミスですから代金はお支払いしますけれど、採用はしませんよ」
「やぁん」
 もう、腹が立つよ。クライアントのオヤジったら嫌になる。素人の癖に知ったかぶりするし。フラッシュ使ってないとか。当たり前じゃん。ホームページでフラッシュ炊いたらまぶしいに決まってる。馬鹿じゃないの。あと、何だったかな、IEがどうとか、CSSとか、ソースが汚いとか、意味が分からない。一番腹が立ったのは、レイアウトが崩れてるとか言われたこと。だってウインドウをちゃんと最大化してない自分のミスを棚にあげて、まるであたしが悪いみたいに言うなんて、許せない。
「企業のサイトで訪問者に見えるアクセスカウンタなんて不要ですし、しかもこれ、あなたが契約してるプロバイダが自社のユーザ向けに提供してるやつじゃないですか」
 ほんと、世の中はあたしがすごいってわかってない。それは、あたしの才能が10年先に進んでいるからだ。出る杭は打たれる。あたしは絶望して、デブデザイナーに転職した。
「太ももにお肉をつけたい? じゃああなたはポテチをたらふく食べなさい」
「あなたは胸とお腹をたゆたゆにしたいのね。じゃあ、ポテチを食べなさい」
「悲しいことがあったの? ポテチを3袋食べなさい」
「先生、私、ピザも食べたいんです」
「いいわよ。コーラも飲んでいいわ」
「わあ、すごくうれしいです」
 世の中の悩みを抱えた女の子たち一人ひとりにぴったり合ったアドバイス。そしてみんなちゃんとしたデブになってあたしから巣立っていく。これはすごくインテリジェントなビジネスだ。
 合宿だって開いちゃう。


 あたしのデブたちは楽しそうに食べている。2泊3日を有効に活用して親睦を深め合っている。
「やぁん、楽しそうね。何食べてるの? ポテチ? 先生にもちょうだい」
「あの、すいません、暑いんで近寄らないでくれます?」「そうそう、クーラーつけててもお前がそばにいると暑いんだよねー。くさいし」「ほんとそうだよー」キャハハハハ
 この子たちは悪のデブだ。許さない。だって、ポテチじゃなくて、なんか紐みたいの食べてる。(後で聞いたら、春雨って言うんだって。)しかも、よく見たらデブじゃない。ヤセだ。あたしはボディプレスした。
「ぐぇ」
 たぶん死んだ。
 一人を逃がした。あたしはすかさず、そいつに向かってジャンプした。夏の強い日差しを浴びて、あたしは最高に輝く夏のオンナだった。汗に湿った肌が光る。そぅーれボディプレス。
「ぐぇ」
 たぶん死んだ。
 悪のヤセは滅んだ。
 合宿は大成功だった。あたしとデブたちの絆は深まった感じがする。やっぱり参加費無料にしたのがよかったみたい。頑張って駅前で「デブが合宿やるので募金してくださーい」って言った甲斐があった。結局、募金は800円も集まったから、90万円くらい自腹で出した。100万円じゃないから、ギリギリセーフだと思う。やっぱ、100万円は、90万円よりヤバイと思う。
 あたしはメールマガジンを駆使して(なぜならあたしはITに強いから。IT革命も、たぶんあたしが起こしたんだと思う)、セキララな日常をつづっている。便座が割れたとか、湯船にはまって3時間抜けなくなったとか。あたしは舌鋒鋭く便座や湯船を批判した。あたしは有名人になってた。だから、あたしはテレビに呼ばれた。スタジオでデブたちをバックにずらりと座らせ、あたしが先頭。「金曜日のスマたちへ」という番組だった。あたしの紹介VTRが流れて恥ずかしかった。
「あのぅ、このVTRのときってあたし、130kgあったんですよね。でも今そんなに太ってないですよ。128kgくらい。まあ見てもらえばわかると思うんですけど、あんなに太ってないでしょ。だから、VTR見たときヤダー、チョーデブじゃん、と思って」
 なんか、みんなビックリしてた。
「え、あの、お痩せになりたいんですか」安住アナが戸惑いながら聞いてくる。
「当たり前じゃないですか。ほんと、前から不思議だったんですけど、後ろのデブたちはなんで太りたいんだろ」
 後ろのデブたちは、口々にデブメリットを叫び始めた。だから、あたしは言ってやった。
「でもさあ、デブってヒザが悪いじゃん」
 一瞬、スタジオが静まり返ってからざわつき始めた。
「そういえばヒザ痛い」「ほんとだ」「よく考えたら痛い」
 あたしのデブたちに動揺が広がった。中居君と大竹しのぶが悲しそうな顔をしている。
「みんな! わたしたちのヒザが大丈夫だってコト証明しようよ。今からみんなでジャンプしてさ!」
 そう言うデブリーダー(あたしの右腕)に続いてあたしのデブたちが立ち上がった。
「せーのっ」


 スタジオが壊れてデブたちのヒザがぐちゃぐちゃになったから、番組は放送されなかった。ごめんね中居君。
 そしてあたしのもとから全国5千人のデブたちは去って行った。なんでいなくなったんだろ? あたしは一人になった。さみしいよー。そこに、電話が入った。
「おいデブ、出番だぞ。行け」
 登録していた結婚相談所からだった。あたしは必死に考えた。あたしが魅力的なオンナだってこと、ITだけじゃない、小悪魔的魅力を内に秘めたオンナだってことを一目でわかってもらわなきゃ。癒し効果があるってこと、心のデトックスになるよってこと教えてあげなくちゃ。
 で、ど根性大根とかが流行ってたのを思い出した。アスファルトを突き破る生命の偉大さ、神秘。これだ、と思った。
 あたしは待ち合わせ時間ぴったりに公園の砂場から一気に生えた。こんなこともあろうかと、砂場の地下に穴を用意しておいてよかった。両手をY字に天に突き上げ、太陽の光をいっぱい浴びて、ミカコは生えました。遊んでいた親子連れが悲鳴をあげて逃げ出す。ふん、あんたたちに用はないのよ。砂が目に入って開けられない。口の中がじゃりじゃりする。あたしのラスト・サムライ、さあ、今こそあたしを収穫して!(ラスト・サムライっていうのは、もちろんイケメンのことです)


 夕方になった。
「あたしは小悪魔ですよー」と小さく呟いたけれど、猫以外来ない。3日経った。飲まず食わず(ポテチとファンタ以外)なので痩せる痩せる。近所のシワシワババアが茶碗に飯を持ってやってくる。無理やりあたしの口になすりつけてくる。「お嬢ちゃん、元気出るよ、ご飯は、元気のみなもとだからね」
 20日経ったころにワイドショーのレポーターが来た。50日経ってアメリカのレポーターが来た。かつてあたしの手掛けたデブどもも来た。ジジババは涙を流してあたしを拝む。猫もポテチの食べかすに寄ってくる。でも、ラスト・サムライは来ない。あたしは、砂掛けババア(イタズラしてくるガキどもに砂をかけてただけ)とか、先生とか、教祖とか、生きる奇跡とか、そんな風に呼ばれたいわけじゃない。ミカコ、ってあたしの名前を呼んでほしいだけ!
「ビカコ!」
 あたしの目の前に前代未聞のラスト・サムライが現れた。顔に目とか鼻とかがついてて、すごいイケメンだった。あたしはラスト・サムライの手を取って、砂ぼこりを巻き上げながら公園を去った。ついにあたしの収穫期が来た!
「なあビカコ、このネックレスさあ、俺に似合うと思わね?」
「日サロ行くから、金」
「俺のこと大切に思ってんだったらさあ、もっといいメシ食いに行こうゼ」
「何言ってんだよビカコ。お前はしまむらがよく似合うゼ」
 あたしのチャームポイントはTゾーンだから、いつも以上にテカらせたりして、あたしのラスト・サムライにサービスしたりした。でも、ラスト・サムライは姿を消し、あたしの貯金は200万円減っていた。
 泣きじゃくるあたしをデブたちが取り囲んでいる。あたしのアパートの部屋にびっしり詰まったデブたちが、静かにあたしを取り囲んでいる。
「先生、」
「先生なんて呼ぶのやめてよ! みんな、笑えばいいじゃん。あたしのこと馬鹿だって思ってるんでしょ。しまむらが似合うって褒められて、いい気になって、ブラジャーの代わりにガムテープで乳を止めてたのをラスト・サムライに見られちゃって、あたしとエッチするのが怖くなっちゃった、だから、逃げ出したんだ。あたし、まだ彼とエッチしてないもん! あたしが素人には扱えないオンナだってこと、自分でわかってる! だから、ちょっとずつ、ガムテープの剥がし方から教えてあげていくつもりだったのに、あたしが油断して見せちゃったから、自分の未熟さに絶望して彼が逃げちゃった、それくらいわかってる、わかってるのよ!」
「ミカコ、大丈夫だよ、私たちに任せて。大丈夫、ミカコはゆっくり休んでていいよ。大丈夫だから、みんな大丈夫だから……」
 やわらかな肉につつまれて、あたしは赤ん坊みたいに眠った。朝、目覚めるとデブたちはいなくなっていた。テレビのニュースでラスト・サムライの死が伝えられた。圧死だという。かわいそう。すごくヤセだったから、地球の重力に耐えられなかったのかもしれない。重力って、こわい。
 あれ以来デブたちはあたしの前に現れない。どこへ行ったんだろう? 最近、笑うと免疫力が上がるって聞いたから、あたしは笑う。ぐふふ。全国のデブども。ポテチなんてもう古い。時代はマックだ。デブども、行け、今すぐ、マックへ。それがあたしたちの、コンカツだ。ぐふふ。ぐふ。