OjohmbonX

創作のブログです。

東京のポッキーゲーム

 合コンでポッキーゲームをすることになった。
 すごくかっこいい人とすることになった。あたしは燃えた。あたしは昔からポッキーゲームが得意だからだ。絶対、勝つ。
 ポッキーの、チョコのコーティングされていない端を男の人が、もう一方の端をあたしがくわえる。そして、少しずつ食べ進める。だんだんお互いの顔が近づく。目を開けると視線の合った彼がはにかんだ笑いを笑う。周りもどんどん盛り上がる。彼とあたしの唇が触れる寸前、あたしは、ここだ、と絶好の機会を見逃さない。一気に頭を後ろに引いて、穏やかに目を閉じて微笑む彼の額を見据えて、あたしの額を思い切り打ち付ける。骨のぶつかり合うゴッ、という音が居酒屋の騒々しさとは異質に響く。ちらっと周りを確かめると、メンバーの驚駭の顔が並んでいた。都会の人たちは、骨のぶつかる本当の音をあまり聞いたことがないみたいだ。
 視線を前方やや下に向けると、彼は目を丸く見開いてあたしを見つめていた。額が割れて血が流れていた。なんだ。まだ意識があるのか。こいつ、やるじゃん。
 あたしは曲線的な、しなやかで素早い豹みたいな動きで彼の髪をつかみ、彼の頭を引き寄せると同時に、こちらの頭も勢いをつけて額を打ち付けた。何度も何度も打ち付けた。
「ドラァッ、ドラァッ、死ねえぇぇ」
 夢中で頭突きを繰り返していたから気づかなかったけれど、彼はいつの間にか気絶していた。


 警察に事情を聞かれて、あたしはびっくりした。都会のポッキーゲームは、こういうのじゃないらしい。両端から二人が食べ進めてきゃー、チューしちゃったー、というゲームらしい。うそだ。あたしの故郷・熊本では相手の意識を失わせるまで頭突きを続けた方が勝ちのゲームのことをいう。すぐにあたしは実家の母に携帯で電話をした。が、そんな事実はないという。あたしの勘違いだったみたい。どうりで彼がぜんぜん反撃してこなかったわけだ。


 今となってはちょっぴり恥ずかしい笑い話だけど、彼は未だに後遺症に悩まされている。