OjohmbonX

創作のブログです。

今から一緒に これから一緒に

<東京の夜空は星が見えません>
と書かれた彼女からの手紙を読み、彼は夜中にもかかわらず友に頼んだ。
「車、出してくれ」
「どこまで?」
「東京」
 そこは福岡であったが、彼の親友は当然のように彼を脇に乗せて出発した。東京の彼女のアパートに着いたのは翌日の、もはや日も傾きかけたころだった。
「お前に、目の前いっぱいに広がる星を見せに来た」
 そう言う彼とその友人を前にして、彼女は玄関先で呆然と立ち尽くしていた。いるはずのない二人を目の当たりにして口もきけずただ目を丸くするばかりの彼女に向かって、彼はもう一度言った。
「この東京で、お前に満天の星を見せてやるよ」
「でも、どうやって……?」
「こうやって……!」
 二人は、彼女の顎に鮮やかなアッパーカットを見舞った。
「どう? 星、見えた?」
「見え……た……」
 薄れゆく意識の中で彼女は、視界にちかちかと星がまたたくのを見た。そしてわざわざ東京まで来たんだもの、一発だけで終わりなんて、ありえない。
「それっ、それっ、どうっ? 星っ、見える? それっ、そぅーれ」
 彼は頬を軽く上気させ、眼には悦びを湛えながら彼女に散々、星を見せ続けた。


 いつの間にか意識を失って玄関先に横たわる彼女を見下ろして、チャゲアスの二人はやおら歌い始めた。
「あれから 一緒に」
「車で 一緒に」
『殴りに 来ました』
 拳を天に突き上げ、
『YAH YAH YAH YAH YAH YAH YAH』
 みなさん一緒に!
『YAH YAH YAH YAH YAH YAH YAH』


 彼女は、たった一枚のファンレターで本物のチャゲアスが会いに来てくれるとは思ってもみなかった。(しかも、会いたいなどとは一言も書いていないのに。)
 近隣住民の通報により警察官が駆けつけたが、意識を取り戻した彼女が必死に「これは同意の上でのプレイ」と言い張ったため大事には至らなかった。チャゲアスに会えてよかったね。