読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

OjohmbonX

創作のブログです。

スーパーモンキーズ

 ゴキブリみたいな速さでカサカサ動き回る赤ちゃんを、丸めた雑誌でいつものように叩き殺していると携帯電話が鳴った。
「社長、ついに我が社の生産台数がトヨタを抜きました!」
 私は興奮する幹部からの電話を静かに切った。ギミギミシェイク10年、ついに我が社は世界一になった。(ギミギミシェイクは平成の次の年号です。)
 ここで簡単に社史をさらっておこう。


 ギミシェ元年。先代の父が死んだ。ペットボトルロケットが体中に突き刺さって死ぬという不運な、全く偶然の事故だった。急遽会社を継いだ私は旧態依然の、職人的な生産方法を見直し、オートメーションによりコケシの大量生産をスタートさせた。年間生産本数は500万本。(この時点でトヨタを抜いており、以降上回り続けている。どうしてさっき幹部がわざわざ電話してきたのかよくわからない。)
 ギミシェ3年。若いサラリーマンが発射間際の電車へ駆け込んだ。頭だけが車内へ入ったところで問答無用の扉は閉じた。首がドアに挟まれ、そのまま切り落とされた。「閉まるドアにご注意下さい」というアナウンスはこの事態を意味していたのだ。電車は発車した。駅に残された体を惜しむように、慣性の法則に従って車両後方へと私の前を横切って転がりゆく生首を見て私はひらめいた。これだ! 簡単に首がもげ落ちるコケシを開発した。飛ぶように売れた。お客様の声を聞いてみよう。
「わたし、コケシの棒の部分だけ欲しかったのよね!」
 だったら最初から棒を買ってこればよさそうなものだが、もちろん愚鈍な消費者どもは気づかない。
 ぎゃあ。
 突然別の赤ちゃんが飛び掛ってきた。私はかわしざまに叩き殺した。1匹見たら50匹いると思えなどと云われる。ここは赤ちゃんだらけだ!
 続けよう。
 ギミシェ7年。ミッキーマウスのコケシを自主的に発売したらディズニーに訴訟を起こされた。何が夢の国だ。私たちは武力で対抗した。コケシの頭を鋭くとがらせて殺傷能力を高めた。ここからは聖域なき改革だ。頭をより強度の高いステンレス鋼にし、顔を描くのも止め、より鋭く薄く仕上げた。胴も持ちやすいよう形状を工夫し、革を張った。そしてこれをナイフと呼ぶことにした。
 ギミシェ8年。訴訟にも戦闘にも完敗したがコケシとナイフの売り上げは好調だった。
 以降、堅実にギャルをターゲットにするなどして今に至る。ビジネスが順調だった一方で私の家族は崩壊した。嫁姑問題が窮まった。これほど大量の赤ちゃんが床をカサカサ這い回る不衛生な部屋で二人は熱湯コマーシャルを始めている。
「ちょっとユミコさん押さないでよ。あたしのタイミングで行くんだから」
「押しませんよお義母さん」
 ユミコは浴槽の縁に四つん這いで立つ母を熱湯風呂に容赦なく蹴落とした。そしてカウンタが30秒を示すまで頭を押さえつけ湯船から上がることを許さなかった。ゆらゆらと湯から上がった母は白目を剥いてピヨピヨ言い始めた。3日間ピヨピヨ言いながら白目で部屋をうろうろした挙句、死んだ。死骸は瞬く間に赤ちゃんたちに覆われ、食い尽くされた。ユミコは涙を流しながらコマーシャルを開始した。
「コケシのご用命は私ども、ミッキーコケシ店へ。通常のコケシの他、首が簡単にもげるコケシ、ギャル向けデココケシ、ナイフ、そしてここだけの話、こっそりミッキーコケシも扱っております。ぜひとも当社、ミッキーコケシ店をご利用ください」
 30秒のコマーシャルを終え、ユミコは静かに涙を流す眼でひたと私を見据えた。
「これがお義母さんの命、そして、私の愛です」
 ああ、仕事にかまけて家庭を顧みなかった私は、それでも、全的に肯定されていたのだ! ふいに平成が、出会ったばかりのユミコと私のあの平成が蘇った。
「ユミコさん今度の日曜」
「ごめんなさいその日は私、出産予定日なの」
「じゃあその次のにちよ」
「ごめんなさい、その日も出産予定日なの。しかも今はラマーズ法の習得に忙しいのよ。ひっひっふー。さようなら」
 こうして男の誘いを嘘で断り続けるユミコは陰で「ザ・マタニティ」と呼ばれていた。構わず誘い続ける私にザ・マタニティは根負けしたのだった。あのころの瑞々しい平成のきもちが蘇るが、今はギミシェだ。
 私はバルサンを焚いた。赤ちゃんたちがピギャア、ピギャアと死んでゆく。私は秘密のボタンを押した。世界中のコケシの頭が爆発する。世界が煙と炎に包まれる。全てをリセットしても元には戻らないことはわかっている。父さんも母さんも死んだ、世界中の人々が爆発に巻き込まれて死につつある、犠牲は大きい。でも、ねえ、ザ・マタニティ、やり直そう。もう平成じゃない。でも、もう一度俺たちの恋をやり直そう。だってギミギミシェイク、0ゲームで終わる恋は、遊びにもならないのだから。