OjohmbonX

創作のブログです。

ババアが若い女と若い男をしつける話

 うちの嫁は嫁いできた初日に、私の夫の仏壇へ線香の代わりに火のついたポッキーをさしました。私は一瞬、これまで感じたことの無い燃えるような熱さを頭に感じてこれが本当の怒りなのだと知りました。けれども何とかそれを抑えて、この若い嫁は常識を知らないのだ、それを教えるのも私の役目と思いなして、つとめて穏やかに諭しました。
「仏壇にたてるのはポッキーじゃなくて、線香よ」
「ったりめーだろ、ババァ」
 嫁はバリボリ、ポッキーを齧りながらそう言うのです。私はもう、我慢なりませんでした。
「しつけますよ」
「やれるもんならやってみろや」
 にたにた笑う嫁が次のポッキーを口元に運ぶその手を、私は掌底で素早く強く押し込みました。ポッキーは嫁の喉を貫きました。そこから先の記憶はしばらくないのですが、気づいた時には私の足元に、ポッキーが全身に突き刺さった嫁の死骸が転がっていました。
 私が若い皆さんへ申し上げたいのはこういうことです。一つは、人を殺してはいけないということ。そこに残るのは悲しみだけです。もう一つは、ポッキーを食べる以外の用途で使用してはいけないということです。私は間違いを犯しました。そして今、15年の刑期を勤め上げずに脱獄して皆さんの前でお話させてもらっているわけですが……


 前の方の女子学生たちは涙を浮かべながら時折うなずいて熱心に私の話を聞いてくれている。けれども少し奥の男の子たちはくすくす笑って別の話をしているようだった。この夏の暑い体育館で、教師たちに強制されて、知らないおばあさんの講演を聞かされるのはしんどいことだろう。けれども、少々礼を失しているようだ。
 私はポッキーカートリッジ(箱のこと)から5、6本取り出して構え、壇上を踏み切って跳んだ。高校生たちの目と口をあんぐり丸く開けた顔が下に並ぶ。ちょいと世の中の厳しさってものを教えてやろうかねえ。もっとも、教えたところでその瞬間、あんたたちの人生は終わってるわけだけどさ。