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OjohmbonX

創作のブログです。

その後のトイレの神様

トイレには
それはそれはキレイな女神様がいるんやで
だから毎日キレイにしたら
女神様みたいにべっぴんさんになれるんやで


 私にそう教えた祖母が死んだ。私を育ててくれた祖母。
 しかし私が今日もトイレを掃除する理由はむしろ、私の趣味が立ちションだからだ。トイレが毎回べちゃべちゃになる。女だから、あらぬところへ飛んでゆく。
 立ちションを楽しみ、掃除をし、その副次的な効果で美貌まで手に入るなら一石二鳥だと思っていたけれど、立ちションする女は嫌だと彼氏に去られて悩んでいる。やめよう、やめようと何度も思ったけれど、どうしてもやめられずにいた。


 いつものように罪悪感にまみれながら腹に渾身の力を込めて立ちションしていると、便器の水面が揺らいで祖母の顔が急に浮かび上がった。祖母の顔は言った。
「わしゃ死んだら成仏するか、千の風になると思っとった。真実はちゃうで。見てみぃ。わし、トイレの神さんや」
「地縛霊みたいなこと?」
「ちゃうちゃう。それはそれはキレイな女神さんやで」
「見た目は生前のままだけど」
「ちゃうねん。きれいなのは、心やねん。顔やないねん」
「心?」
「そうや。昔はな、わし、憎しみを原動力にして生きとったみたいなとこあったんや。あんたのことも、しょっちゅう死んでまえ思っとったで。それが今はどうや。穏やかなもんやで。ほな試しにそこのスッポン、便器に入れてみいや」
 私は生前の祖母が憎しみを原動力に生きていたと知って動揺したが、ともかく女神の言う通り掃除用のラバーカップを便器に捨てた。するとただちに祖母の実体が便器からザバーッと現れた。
「あんたが落としたんはこの金のスッポンか? 銀のスッポンか?」
「普通のスッポンだよ」
「あんた正直やわ。ほな3本ともやるわ。有り難く……受け取りやーッ!」
 女神は私の顔や体に3本のスッポンを吸い付けて、便器の中に引きずり込もうとした。
「いっつもいっつも、トイレをべちゃべちゃにしくさってからに、ほんまーッ! 死ねーッ!」
 トイレに引きずり込まれる。殺される。そんなのいやだ。私はおばあちゃんのことが好き。今でも好き。でもいや。死にたくない。お願いおばあちゃん、もう一度死んで。今度はちゃんと死んで。私は死にたくない。生きて、絶対に生き抜いて、また立ちションするの!
 私がそう強く願った瞬間、トイレの中が光に包まれてスッポンが消滅した。おばあちゃんが光っていた。
「そうや。それでええんや。立ちション、やんなはれ。自分のこと信じ。きっと次に、あんたがほんまに好きになる人はあんたの全部を受け入れてくれる」
「おばあちゃ」
「愛してるで」
 光とともにおばあちゃんは消えた。一人残されて私はただ、立ちションしながら大粒の涙がこぼれるばかりだった。私の尿も、涙も、心も、ひたすら温かい。