レクイエム
じいちゃんは数カ月前から意識も無いまま管につながれ、そのうえ死期は医者によって不遜にもあらかじめ告げられ、じいちゃんはその宣告された死に合わせるように死んだのだから、その死はぼくらにとって準備されたことだったはずなのに、ばあちゃんは通夜の席でなおも取り乱し、嫁たる母さんはそれを卑しいもののように見て、息子たる父さんは狼狽しながら黙って眺めるばかりだった。
乱れに乱れていたばあちゃんが突然おとなしくなって、ぐったりじいちゃんの脇に座り込んだ直後、懐に隠し持っていたこんにゃくゼリーをいくつも喉に押し込もうとした。
父さん伯父さん大叔父さんたちに阻まれ取り押さえられ、こんにゃくゼリーはばあちゃんの手から畳の上へぽろぽろ悲しそうにこぼれ落ちた。
「死なせて、私も逝かせて、あなたーっ!」
深夜の沈黙を裂いたばあちゃんの絶叫が耳を貫きながら、なるほど、そういうやり方って、トレンドだなあ、とぼくは思った。
じいちゃんの遺骸を囲んで騒然とする広間を辞し、ちょいとトイレに行って戻ってみれば、ばあちゃんは喪服姿から胸にはビキニ、腰にはパレオというセクシーでしわしわな姿になっていた。そして腰を振って踊っている。垂れた乳房が揺れる。
こんにゃく畑でフルーツと・れ・た (にゃく にゃく)
そしてばあちゃんは歌っている。(にゃく にゃく)は親族一同が言っている。ばばあが一人踊る。みな座って見上げている。じいちゃんは死んでいる。
クラッシュタイプのこんにゃくば・た・け (にゃく にゃく)
なんかよくわかんないけど、こういう魂の鎮め方もあるんだなあと思った。これで残された者たちが救われてゆく。通夜はまだ、始まったばかりだった。