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OjohmbonX

創作のブログです。

カリフォルニアKAWMON

 その老人はアメリカ全土を旅していた。お供に二人の屈強な男を連れて。黒人のボブと白人のロバートである。ボブは四角い顔立ちに似合った堅物の男、ロバートは甘いマスクの優男であった。


 彼ら一行は小さな町にたどり着いた。非常に閉鎖的な町であった。その町の町長の息子は親の権力を笠に着て町では悪行三昧であった。しかし警察署長は町長と結託してその息子の犯罪をもみ消していた。
 ある若い警察官が堪り兼ねて不正を告発しようとした。だが彼は殺されてしまった。無残な兄の遺体を目にした妹は、自身を顧みず復讐を果たしたいが、年老いた母を一人残す訳にもいかず逡巡していた。心配を掛けまいと母親には兄の死の真相を伝えていなかった。そこへ老人一行が行きあわせたのである。
 老人は娘に早まった真似は控えるように押しとどめつつ、密かに不正の証を集め始めた。途中、バーブラ・ストライサンドの入浴シーンも挟みながら調べは進んでゆく。そのさなかに偶然、町中で町長とその取り巻きが、死んだ兄を嘲弄するのを娘は聞いてしまう。激情に駆られて娘は母に事の顛末を打ち明けてしまう。母親は娘の肩を抱き二人で復讐を果たそうと娘と誓い合う。死を覚悟した抱擁だった。
 母子は警察署に向かう。しかし署長室にたどり着く前に署の広い裏庭で捕らえられてしまう。署長と町長が揃って母子を眺め、笑っている。
「殺せ」
 母子に向けられた拳銃の引き金が絞られる刹那、どこからか哄笑が聞こえた。署長と町長がかすかな狼狽を見せながら誰何すると、それには答えず老人が門から悠々と入ってきた。ボブとロバートを従えてまるで散歩でも楽しむかのようなほがらかな顔をして老人は署長・町長と母子の間に割って入った。
「ええい、なんだこのじじいめ。一緒に地獄へ送ってやる。カモン、ガイズ!」
 署長が叫ぶと建屋の中から三十人ほどの屈強な警察官が老人たちを取り巻いた。老人の顔付きはさっと厳しいものに変わった。
「ボブさん、ロバートさん。こらしめてやりなさい」
 警察官たちが襲いかかる。ボブは素手でそれを殴り殺していく。ロバートは大型のハンドガンで撃ち殺している。途中でバーブラ・ストライサンドも参戦した。得意のニンジャ・アクションで敵を殺していく。
 半数近くが殺害されるに及んで、署長と町長の恐怖はマキシマムに達した。老人はそれを認めて、
「ボブさん、ロバートさん。もうよいでしょう」
と合図を送った。ボブとロバートは敵の攻撃をいなしつつ老人の脇へと下がってゆく。
「シズマレーイ」
「シズマレシズマレーイ」
「このモンドコロが目にハイラヌカ!」
 ボブはスーツの内ポケットからiPhoneを取り出した。iPhoneの液晶画面にはAppleの齧り林檎のロゴが表示されている。そしてロバートは高圧的に一同に向かって言い放った。
「こちらにおわすお方をドゥーナタと心得る。恐れ多くも先のCEO、スティーブ・ジョブズ氏にあらせられるぞ。一同、ズがTOO HIGH!! ヒカエオロー!!」
 一同は何がTOO HIGHなのかよく理解できなかったが、土下座をした。そうすることに決まっているからである。
 ジョブズは署長と町長をぎろりと睨みつけた。
「オヌシらの悪行三昧、このジョブズがしっかり見届けたぞ」
「何をおっしゃいます! 私どもはただ町の平和を維持するように努めて参りました」
「黙らっしゃい!」
 ジョブズの背後におもむろに巨大なスクリーンが現れた。そこへ署長と町長の数々の悪行の映像が流された。その映像の前でジョブズは、いかに二人が悪逆無道であるかを紹介する魅力的なプレゼンを行った。明確でインパクトのある数字(署長と町長による経済的損失)や他社製品との比較(全米の署長・町長による民間人の平均殺害人数との比較)、あるいは力強いフレーズ(これは世界が見たアメリカン・ドリームなのだ。しかし、ナイトメアーとしての。)を奇跡のように連発して聴衆を魅了した。そして最後にジョブズは、
「カーッカッカッカ」
と笑って世界最高のプレゼンは幕を閉じた。


「達者で暮らしなさい」
 感謝の言葉を何度も述べる母子に向かって後部座席から老人はほほ笑んでいた。
「カーッカッカッカ」
 哄笑を残して、一行を乗せたメルセデス・ベンツSL55 AMGは砂煙を上げて町を走り去っていった。


 母子はようやく一息ついた。
「プレゼンはさすがに素晴らしかったけれど、やっぱり疲れたわね」
 母子は知っていたのだ。母子だけでなく、町の誰もがジョブズの顔が町に現れた瞬間から、終幕までを見通していた。
 だいたい、アメリカ市民がジョブズの顔を知らないはずがない。そしてインターネットの普及した現代にあって、ジョブズが全米をまわって何をしているかを知らないはずがない。実際、Youtubeにはジョブズが勧善懲悪を達成する動画が数多く公開されている。ジョブズが町に現れた瞬間から、この町に何が起こるか分からないはずはないのだ。
 それでも皆、この茶番に知らぬ顔で付き合っている。すべてはジョブズの心を満たすために。(しかしボブとロバートに殺されるのはしんどいが。)これまでの功績からそうする権利がジョブズにはあると、アメリカ市民には当然のこととして考えられているのである。政府もまた黙認している。これが、アメリカという国なのである。