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OjohmbonX

創作のブログです。

失われた感情を求めて

 女子高生・島田わぴょしはマックのバイト。感情は捨ててきたから笑顔はない。スマイル \0? ううん、\∞。
 事故やトラウマからじゃない。ただ、中学二年のときにちょっとミステリアスな女を演じてたら、本当に感情を忘れてしまっただけ。ついでに友だちも置いてきた。
 わぴょしは感情と友達を(あわよくば追加で彼氏も)取り戻すためマクドナルドの門を叩いた。今では立派な店員だ。
「持ち帰りで」
「そんなの知らないです」
ビッグマックセットひとつ」
「そんなのないです」
「ないわけないだろ」
「じゃああります。2千円です」
「ふざけんな」
「2千円札でいいです」
 もう感情がないとかいう問題じゃないけど、ミステリアスな女の設定は続けていたのでしょうがない。ミステリアスかどうかもよくわからない。
 でもわぴょしを責めるのは間違ってる。彼女はすごく努力してる。その証拠に今の見た? トレイに敷く紙あるじゃん? 普通は新メニューの紹介やバイトの募集やハッピーセットのおもちゃのラインナップが印刷してある。でもわぴょしは今、オリジナルの紙を敷いた。白い紙に大きく電話番号が書いてある。これはわぴょしの携帯番号だ。
 はっきり言ってわぴょしはもう感情と友だちのことはあきらめてる。失ったものを追い求めてもしょうがない。そうじゃなくて新しくつくることが大切なんだ。彼氏を。
 それでコレっていう男にはマックのノーマル紙じゃなく、わぴょしのスペシャル紙を敷く。でもわぴょしには感情がない。どんな男を見てもときめかない。それじゃあどうやってコレっていう男を選ぶ?
 こういう基準。その男がエグザイルにいてもOKかどうか。わぴょしはいつもこの判断基準を大切にしてる。これならだいたい分かる。


 非番の翌日、わぴょしの携帯にさっそくTEL。機械的に出るわぴょし。
「私は島田ですけど、電話をかけてきたってことは、私の彼氏になりたいってことですよね?」
「えーなにこれぇ。やっぱそういうことなわけぇ?(ほらぁあたしの言った通りじゃあん)」
 男の声の奥で女の声がする。
「はあー? マジなんなんだしよぉ(キャハハ。アツシもてすぎんだろマジで)うっせーし!(デレッてんじゃねーよ)デレてねーし。あんな女キモすぎっしょガチで」
 電話は切れた。ゴミカップルに嗤われた。わぴょしの喉の下あたりににぶい痛みが走った。
「こんなのエグザイルじゃない……!」
 おやおや? 今のは感情じゃなかろうか? しかし波はたちまち静まった。
 また携帯が鳴った。出ても意味はないとわぴょしは無視した。切れた。また鳴った。
『みんなが嗤ってるー』
 わぴょしは着うたにサザエさんのオープニングテーマを入れている。(エグザイルではない。はっきりいってわぴょしはエグザイルが好きじゃない)
『お日さまも嗤ってるー』
「うるさい! 私を嗤うな!」
 おやあ? やっぱり今のは感情ってやつじゃないかな?
 どんどん電話が鳴る。わぴょしには男という男ぜんぶがエグザイルに見える特技があったから、店に来た全男に紙を渡してる。勢い余っておばあさんにも渡してる。だからどんどん鳴る。その上わぴょしは念のため、サブ携帯までいくつか用意して未来の彼氏に対応していた。5台の携帯が同時になる。サザエさんの歌が鳴り重なる。
『みみみみみんなが嗤ってるるるるるー』
『おおおおお日さまあもも嗤ってるるるるるー』
『るるるーるるるるるっるるーるるるるるるるるるるるー』
『ききき今ー日もいい天気いいいいいいい』
 外はどしゃぶり。全然いい天気じゃない。でもみんなが嗤ってるよ、わぴょし。
「うるさい! うるさい!!」わぴょしは両手で耳をふさいでうずくまった。
 うほおーっこれはもう完全に感情だねえーっ!? やったじゃん、わぴょし。感情を取り戻せたよ。うれしい? ねえ、うれしい??
「助けて……」


 そのときカギのかかったわぴょしの部屋のドアを蹴破って入ってきたのは、雨でびしょ濡れの店長だった。店長は携帯を次々に真っ二つに折って黙らせた。携帯が止まり、ガラス窓越しのどしゃぶりの雨の音だけが残った。薄暗い2階の部屋に耳をふさいでうずくまるわぴょしと、それを見つめる店長がいた。
「つらかったね」
 店長のその一言で、わぴょしは大泣きして店長の胸にとびこんだ。わぴょしの気が済むまで店長は泣かせてあげた。
 それでわぴょしは店長に抱かれた。その後もわぴょしは店長に都合よく抱かれた。こうやって店長はバイトを食い物にしている。よかったね、わぴょし。感情ももどったし、彼氏もできたし。


 油の浮いた中年男にいいように抱かれるたび、わぴょしのお腹に少しずつ違和感がたまって、それでも世間知らずの女子高生はどうしていいかわからずに、再び感情を手放すことにした。何も感じなければ平気だった。抱かれ続けた。
 それを黙っていなかったのは昼間のパートのばばあどもだった。店では徹底して店長をDISり抜いた挙句、まともな証拠もなしに本社へ告発した。店長が店を辞めた後も陰に陽に手を回して次の職を妨害して、ついに引っ越させるに及び、急に気が済んだ。
 本人たちは正義感からそうしたと思ってる。でも別にわぴょしを思ってのことじゃないし、女子高生が食い物にされようとかまわなかったし、あとから考えると店長自体も憎んでいなかった。単に、そういう性質から自動的にしたまでだった。


 そんなわけで感情も彼氏も失ったわぴょし。
『みんなが笑ってるー』
 SIMカードが生きていたから番号そのままに買い替えてた携帯が鳴った。
「わぴょし」
「あの、マックの人ですか」
「そうです。わぴょし」
「(わぴょしってなんだろ?)その、俺、まえマックでこの番号もらって、もしかしたらあなたに通じるのかなと思って、でも電話する勇気なくて、ずっと紙だけ持ってたんだけど、えと、あ、名前きいてもいいですか」
「だからわぴょし」
「わ、それ名前だったんだ。すごくすてきだ!」
 ま、ゆっくり取り戻してけばいいじゃん?