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OjohmbonX

創作のブログです。

あの子じゃわからん 相談しましょ そうしましょ

 よしさんとあれから進展あった? うん。
 僕ね、君がよしさんのこと、恋煩いの事、話してくれて本当に嬉しいと思ってるんだよ。もちろんそれだけじゃなくて、バイトの事とか、学校の事とか、サークルの事とか、好きなアイドルやバンドの事とかいろいろ話してくれて、楽しいし嬉しい。ただ実はちょっと、よしさんの話聞いてなんかね、しんどいところもあって。それは君が悪いんじゃなくて、こっちの問題なんだけど。ちょっとその辺のことを相談したいなと思って。
 家だとリラックスしすぎて話が流れちゃうし、店で他の人に聞かれると思うと本気で話できないし、それで個室のあるお店にしたんだよ。
 僕がどう思ってて、どこでちょっと上手くいかないところがあって、あと、これからどうしていこうかって話をしたくて。


 その前に、僕は本当に君に感謝してるんだよ。ここ3ヶ月、君と会ってからほんとにすごく自分が生き生きしてるような気がする。大げさな言い方みたいだけど、人生を活性化されたって感じがしてるんだ。すごく感謝してるし会えてよかった。これからもいい関係を続けていければいいなと思ってる。
 それで、よしさんの話をいろいろしてくれたり、あるいは僕の方から聞いたりしてるってことなんだけど、なんかその話を聞いてから君とセックスするっていうのが苦痛になったんだよ。まえ、してる最中に、最近好きな人がいるってはじめて話してくれて、その時一瞬なんかショックだったけど、そのあと少し気が楽になった。変な話みたいだけど。
 もともとお金渡してセックスしてるじゃん。最初からそういうので会ったんだし。でも一方的に性欲を満たすって感じじゃなくて、普通にお互い楽しくなるようにやって、それから普通におしゃべりしたりご飯食べに行ったりもして。そうしてるうちにちょっと混乱してたんだよ。ほとんど全部、友達みたいに付き合ってる。なのに、お金を払っている。これって何だろうって。いや、単に経済力の差があるから、ご飯代や交通費を払ってるだけだし、あとはお小遣いをあげてるだけだ、それは親戚の子供にそうするようなものだ、って解釈してた。そうやって欺瞞みたいな納得の仕方しようとしながら、でも、お金無しならセックスだってしないんだよな、と思うときちんと納得を定着させられなくて、ふわふわしてちょっと苦しかった。
 でもはっきり「好きな人がいる」って、僕のことは好きなわけじゃないし、お金のためにセックスしてくれてるだけだ、というのがある程度はっきりさせてくれたから、そのふわふわしてたのが安定して気が楽になったんだよ。
 これでよし、と思ってたんだけど、ちょっと甘かった。


 この前、よしさんと進展があって、よしさんとこに泊まって添い寝された、ぎゅっとされてどきどきしたって話してたよね。それ以上はしたくないの? って聞いたら、したいけどって。じゃあ次はもう少し頑張ってみるって言ってたよね。実はその話を聞いてからなんか君とセックスするって言うのが急に苦痛になったんだよ。
 自分でも全然想定できなかった。これはぜんぜん、君が悪いってことじゃなくて、完全にこっち側の問題だから。君にとって金のためなんだってことを確かめ続ければつらくないと思って、よしさんとの進展を聞いてたのに、実際に進展があったら逆につらくなってしまった。念のため言っておくけど、僕は君がよしさんと付き合ったりして幸せだったら、別にはったりや負け惜しみじゃなくて本気で、いいなと思ってる。


 どうしてだろ? って考えたら、こういうことだと思った。君っていうものさしで測ると、僕よりよしさんの方が魅力的だ。よしさんと僕はほとんど同じ年で、そういう年齢で言い訳もできない。で、僕はその魅力の不足分を金で埋めている、っていう形。別に恋人にしたい、なんて願ってる訳じゃなくても、どうしても君を通してよしさんと自分を比べちゃうんだよ。
 今までは、僕とはセックスをしているけど、よしさんとはしていないって差があったけど、それももうなくなる。もうそうすると、お金を君に渡してセックスをしようっていうのは、「お前は魅力的でない人間だ」っていうのがベース音みたいに鳴り続けてて、つらい。自分がみじめになる。
 きちんと割り切って、君の方の感情や評価とは無関係に、たんに僕がそうしたいからそうするだけだ、君はだって、すごくかわいいし魅力的なのは僕にとって変わりないんだし、と割り切れるかなと思ったけど、どうしても無理っぽい。
 それで、僕は君のことが本当に大好きだし魅力的だと思っているけど、余計にみじめになるのが耐えられなくて、そういうことも直接言えなくなってきた。


 二重につらいって感じなんだ。
 はっきりお金のためにそうしてるってわからせてくれれば、かえって上手く割りきれるかもしれない。バスに乗ってて揺れたときによっかかってきたり、歩いてて人通りがないと体寄せてきたりして、うれしいけど、同時にすごくつらいんだよ。
 でもそれが解消できてもまだ、比較して自分の方が下なんだ、っていうみじめさが解消できないなら、結局どうしようって考えると、もう自分を天秤に乗せるのをやめるしかなくて、それで、君とはもうセックスしない、ふつうの友達みたいになるってくらいしかない。そしたら自分をよしさんと比べて勝手にみじめになったりしなくて済むかもしれない。


 よしさんと上手くいって、というか添い寝までしてくれたんだから間違いなく次は抱いてくれるんだろうけど、そうなったら君にとって僕とセックスするっていうのはどういう位置付けになるんだろう? お金のため、もうそれだけなんだって、せめてそう言ってくれれば、二重のつらさの一重目だけは消えて、少しは救われると思うけど……


 私は愚かなお前に、猫のように愛せと言う。部屋でひとり無暗に歩き回り、長いひとり言をうわ言のように呟きながら、結局隘路に陥って疲弊する愚かなこのお前に、私は、ただひたすら、猫のように愛せ、一人の人間同士の付き合いと見なすのは止めよと言う。人は猫の前で、この全存在が猫のためにあるように振る舞う。まさにそうしろと言うのだ。
 猫を可愛がるのに「自分のことをどう思っているのか」と苦悩するなどあり得まい。猫がよそでどう乳繰り合っていようと、可愛いものだとそれすら愛せるだろう。一方的に所有しているのだという思考がそうした余裕をもたらすだろう。お前はその年下の男を、ただひたすら甘やかし、愛でて、楽しむだけだ。
 しかしお前は「割りきれると思っても無理だ」などと言う。「相手を一人の人間として扱わなければだめだ」などといった倫理を曖昧に保持しているからだろうか? 全く愚かなことだ!


 お前が根本で抱く原理はなんだったのか。「自尊心を満足させる」すなわち「惨めさを感じさせない」ことを自他ともに対して希求するという至上命令がお前にとっての全てであって、それ以外の一切は先行しない。この至上命令の前では「相手を一人の人間として扱わなければだめだ」といった曖昧なテーゼは遠くに霞む。
 そもそもが、売春をしておきながら、あたかも金を払ったことなど忘れたように、性欲を一方的に満足させる行為ではなく、お互いが満足するような性交を最初に目指したのは何だったのか? それはあの至上命令に従ったからではないか。だとすれば、その一歩を選んだ以上、それを貫くのがお前の筋ではないのか。
 そして猫のように愛することは、相手を圧倒的に肯定することであり、あの蒙昧なひとり言を相手に一切聞かせることなく、性交を拒まれるのなら当然に従う。ひたすらに相手の感情も行動も肯定することは、まず他者の自尊心を満足させるという至上命令に対して合目的的である。
 しかもお前にとっての至上の喜びはまさに、自分自身で選んだ至上命令に、自身を完全に従わせていると知る瞬間にこそあって、その喜びの前では、人に好かれたいだの、人と比べて優越したいだのといった喜びなど塵芥にも等しいはずだ。そこに惨めさなどが入り込む隙はない。ここに自他ともに対して至上命令が完全に合目的的となる。
 私はお前を試している。至上命令にお前がどこまで報い得るのか、この私に見せろと要求している。お前は彼を、あたかも猫のように愛さなければならないと私は言う。