OjohmbonX

創作のブログです。

2012-01-01から1年間の記事一覧

不当逮捕

よくある話なんだけど、あたし万引きGメンじゃん? ぜんぜん万引き犯がいないとあたしがサボってるって店長が思うから、適当に客のカバンに店の商品を入れてんの。で、そいつが店から出た瞬間あたし、 「奥さん、お会計お忘れじゃないですか?」 こうよ。 こ…

キリン♀の♀キリ子

「バレーボール部?」 ってみんなが言う。近所のおばさんとか。私が175センチもあるから。バレーとかしてないですけど。あら、もったいない。何がもったいない? 私の背がもったいない? それってバレーでもしてなきゃ、でくの坊ってわけ? キリ子と呼ばれて…

オヌメサンバ

産婆のオヌメはこのあたりの村の女達から恐れられていた。オヌメは取り上げたばかりの赤ん坊を出てきた穴にまた出し入れするからである。女達にとって地獄の痛みである。しかしオヌメの取り上げた子供達は一人残らず丈夫に育ったから誰も文句は言わないので…

ともみあたしともみ

あたしとともみって親友じゃん? てか神友じゃん? だからはっきり言うんだけどー。あたし、ともみのこと嫌いってかんじする。 あ、ちがうちがう、嫌いってっても、いい意味で嫌いだから。 だーょ。あたしたち神友じゃん? わるい意味で嫌いだったらそれって…

他愛なく無用である

長いので分割しました。半年ほど前に書いたものです。 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 |

エンパイア・オブ・ルンバ

さっきからルンバがおばあちゃんのすねを攻撃してる。ガンガン当たってる。でもおばあちゃんは無言だ。立ったまま。 障子紙を通して強い逆光が和室に差し込んで、戸の透き間から覗くぼくには、おばあちゃんの表情は陰に沈んで伺い知れない。 ふいにおばあち…

ラブ・ラビリンス

あたしの顔を見て、あたしのダーがあたしに 「うるせえ」 とどなった。あたしは去年から一言もしゃべってないのに。 「メーンゴッ」 あたしは2012年に入って最初の言葉をしゃべった。 「うるせえドブス」 ダーはもっと怒ってピスタチオをあたしに投げつけた…

友達にはなれない

あ、この人、すっごく感じのいい人だなあ。 おれはお客さんの額を指で押した。 「いたいです」 「ごめんなさい」 まちがえた。人間にはいいね!ボタンがついてないんだった。もうクセになっちゃってる。 それにしても、石焼きビビンバの注文を50分も放置して…

ライブハウス

レオパレスだから気をつかってすごく小さい声で小フーガト短調を歌っていたら、右隣の部屋から第2声部が続いて聞こえてきた。ふだんお隣のティッシュを抜く音さえ聞こえるんだもの、あちゃー、やっぱ聞こえてたかと思いながらそのまま歌っていると、今度は左…

絶望的な幸福が始まる

妖怪の娘 八十歳はぜったい過ぎてる。なのに妊娠してる。しかも足がぐちゃぐちゃ。どーなってるの? 優先席の権化みたいなおばあさんがこっちに来る。優先席に座ってるぼくの方へ! おばあさんがぼくの前に立った。全身に大量の「おなかに赤ちゃんがいます」…

ロスト・テクノロジー

ああ、君が今あわてて手に取ったスプレーのことで、少し昔話をさせてくれないだろうか。君の時間を一方的に止めて、奪って、まったく何様なのだろう、暴力的なやり方だとわかっているけれど、ぜひ話をさせてくれないだろうか。 佐々木兵衛はすでに息子に家督…

長編のご案内

ちょっと長い創作の文章を3つ↓に載せました。 http://d.hatena.ne.jp/OjohmbonX/00000101/p1 なにかの賞にだしてだめだったやつを載せているので、書いてから少し時間が経っています。まただめになったら載せていこうとおもいます。 インターネットで実利も…

善き羊飼いの子は羊

「ハーイ」 かん高い声を聞いて甚六は、ヘーベルハウスを、意識しないまま心の底で一瞬期待しながら振り返るとしかしそれは、イクラちゃんだった。甚六にはまるで分からない。なぜ、いつから、自分の部屋にイクラちゃんがいるのか。 「チャーン」 さらに振り…

失われた感情を求めて

女子高生・島田わぴょしはマックのバイト。感情は捨ててきたから笑顔はない。スマイル \0? ううん、\∞。 事故やトラウマからじゃない。ただ、中学二年のときにちょっとミステリアスな女を演じてたら、本当に感情を忘れてしまっただけ。ついでに友だちも置い…

つつきつつかれ

白刃をだらりと提げた噂の辻斬りを面前にしてもなお平内は、自身が標的とは露ほども考えなかった。名のある遣い手を選ぶと噂の辻斬りが、まるで剣に疎い自分に用のあるはずもないと信じきっていた。 「抜け」と辻斬りに言われるまま訝しげに刀を抜くに及んで…

戯曲:紳士の優雅な午後の愉しみ

第1幕 [チェーンストアのカフェ。] [紳士が紙コップを店長に突き出している。] 紳士 私はコーヒーに多少鼻くそを入れられたくらいで怒りはしない。実際、今までもこの店では毎回入れられていたのだしね。 店長 まさか! どうして黙っていらしたんですか! 紳…

愛、この永遠の青

君は本当にミイちゃんを愛しているのだろうか。 それはひょっとして君が、青狸などではなく猫型ロボットなのだというアイデンティティを、内外に誇示するための手段に過ぎないのではないだろうか。猫のミイちゃんに欲情する私は猫だと証し立てるための。君の…

手紙 〜拝啓 十五のベジータへ〜

拝啓 この手紙 読んでいるベジータ どこで何をしているのだろう 十五の王子は誰にも話せない 悩みの種があるのだよ 未来の自分に宛てて書く手紙なら きっと素直に打ち明けられるだろう 今 滅ぼして 滅ぼして 消えてしまいそうな星を 見ながら思う 俺は強過ぎ…

呼吸を止めて、一秒

浅黒い少年と青白い少年が中学校で出会った。 公立中学は地域と年齢とで、全く暴力的なやり方をして少年たちを区切って内部に放り込んだから、この二人は出会うことになった。二カ月足らずのうちに少年たちはゆるやかなグループを形成した。二人はもちろん一…

神のモロ見えの手

「神の見えざる手が最近見えるんだ」ってケンチが急に言い出した。「アダム・スミスの」 「なにそれ? 勉強のこと? 俺勉強できないからよく分からない」 ケンチは俺をすごく軽蔑する目で、一瞬だけ見てすぐににっこり笑った。ケンチは頭がよくてやさしいか…