OjohmbonX

創作のブログです。

 無目的に近所の家電量販店に行ったら,レジに中学時の同級生らしき人がいた.だがはっきりとした確証が持てなかったので,声をかけるのがためらわれた.もしも全く違う人だったらどうするというのだ.
「おお,おお,塩谷君やんか」
「ええと,どちら様で」
「なーにをたぁけたこと言っとるの.オジョンボンやて」
「すみません,恐らく人違いかと」
「あ,あ,そうなの,そうですか……」
 耐えられない.僕は,こんなの,耐えられない.人によってはどうってことないのかも知れませんが,僕は,恥ずか死ぬ.
 であれば声をかけずに素通りすればよろしい.と人は思うのでしょうね.でも僕は寂しい.人恋しい.声をかけたいの.かけたいの.
 というわけで,いかにして恥ずか死なぬようアプローチするか.考えた結句,何らかの商品を購入するためにレジに並び,その際に塩谷君らしきレジの人が胸につけているであろうネームプレートにより彼が塩谷君であるか否かを判断.レジの人が塩谷君であれば声をかけしばし歓談.そうでなければ普通に商品を買い,塩谷君でなくて残念ですね,と寂しさを噛み締めながら帰宅.完璧なアプローチ.僕は恥ずか死なずにすむ.
 ちょうどブラウン製の電動歯ブラシの換えがないのを思い出したので,換え歯ブラシ2本入りを手に取りレジに並んだ.しかしよく考えると換え歯ブラシ2本入りは,たった2本しか入っていないにもかかわらず約2千円.高い.というわけでレジの並びから外れ,2本入りを棚に戻し,代わりにトリプルタップ,1つのコンセントから3方向に電源を分配することができます,170円を手に取り,レジへ.
 レジの人の名札を見ると塩谷.僕したり顔.
「おお,おお,塩谷君やんか」
「ああやはりオジョンボンであったか.さっきからそうであったと思うておったわ」
 さっきから.店に入って声をかけようか逡巡している僕を,2千円の換え歯ブラシを170円のトリプルタップに代えて並びなおした僕を,僕がオジョンボンであると認識していながら,見ていたというのか!
 僕は恥ずか死にました.
 
 でも実際には生きています.それから,店内に置いてあるマッサージチェアによりマッサージを10分ほど施された後,家に帰りました.僕はまだ生きています.