OjohmbonX

創作のブログです。

 シンデレラや白雪姫,かぐや姫一寸法師,浦島太郎,桃太郎などの幼少時に母らから聞かされた物語は大体,あるいはポイントとなる箇所を覚えているのだけれど,親指姫はほとんどタイトルしかわからない.親指姫のそのタイトルと,ごくわずかな記憶を基にストーリーを補完していくことで,茫漠とした記憶が明瞭になり,本来のストーリーを意識に立ち上らせることができるのではないか……というわけで以下.

 王子さまはある朝目を覚ますと,両手両足の親指が艶やかな服を纏った女性の上半身になっているのに気づきました.これは,お姫さまだ,と王子さまは思いましたが,すみやかに彼女ら本人によって否定されました.「私たちは四天王です」彼女らはそれぞれ,ベガ,バルログサガット,バイソンと名乗りました.
 王子さまの唯一の趣味であり,また一日のうち食事,排泄,入浴,睡眠以外に唯一することがMicrosoft Windowsに搭載されている「マインスイーパ」というゲームで,王子さまはマウスを強く握る癖があったため右手親指のベガの顔はすぐに潰れてしまいましたが仕方のないことです.
 同様に足の親指のバルログ,バイソンの顔もまた潰れる恐れがあり(といっても王子さまは立つ・歩くことがほとんどなかったので,ベガに比べれば軽微なものでしょうが),そのためにバルログが,私は本来足の指に存在すべきではないこと,しかし手の指もまた傷つきやすく私が存在するのに不適当であることなどを3時間ほど熱心に語りかけるのを王子さまはマインスイーパを,完全に潰れて原型を留めていないベガの顔を意識しつつ,遊びながら聞いていました.バルログは王子さまが自分の願いを叶えてはくれまい,と思っていましたが,バルログの端整な,スペイン臭い顔を密かに好んでいた王子さまはその日のうちに何とかしてやろうと,マインスイーパをしながら,決意しました.手足は不適当,腕や脚もそこから突起物が生えていては邪魔のような気がする.顔や背中ではバルログの顔が見られない.結局,それほど邪魔にならず,また顔を見やすいということで,右足親指(=バルログ)とペニスを手術により交換・移植しました.
 息苦しくないように,その顔をいつでも眺められるように,股間に開けたズボンの穴から王子さまはバルログを常に取り出していました.バルログは辛い足指生活からの解放をとても嬉しく思い,いつも機嫌良く王子さまに話しかけました.王子さまもバルログとの刺激的な会話により脳が活性化されたためか,マインスイーパの成績が飛躍的に向上(上級でおよそ30秒短縮)して大変満足です.
 二人の暖かで幸福な日々が過ぎ,摩擦や圧迫によりベガ,サガット,バイソンの顔がつぶれ,腕がもげ,とうとう普通の手足の親指と見分けがつかなくなってしまったある朝,バルログは何の前触れもなく姿を消しました.股間には右足の親指が,右足の親指が本来あるべき場所にはペニスがあるのを王子さまはしばらくじっと見つめていましたが,昼食後に再手術して元通りになりました.
 王子さまはその後隣国のお姫さまと結婚し,子どもが生まれました.その子は親指をしゃぶるのをなかなかやめなかったので,民衆は嘲って親指姫などと呼びましたが,その渾名をむしろ好み,後に善政を敷きあらゆる人々に愛される女王となりました.

 結局,本当の親指姫のストーリーが思い出されない.