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創作のブログです。

つっこみポイント

 僕の好きな五言絶句の一つ李商隠「樂遊原」

向晩意不適
駆車登古原
夕陽無限好
只是近黄昏

 現代語訳は以下の通り.

 登下校時にいつも近所の塀の上で見かけるペルシャ(猫)の首に紐がつながれているのを見て腹立たしく思い,ランドセルから鋏を取り出して切ってやったら,ペルシャはひょいっと塀を飛び降りてすみやかに自動車に轢き殺されました.もちろん私が蘇生術を施したため私の腰の高さくらいある三毛猫として甦りましたが,動きがぎくしゃくしているのは脚を20本増やしたからしょうがないんです.
 家に帰り,ランドセルの中から取り出した猫を見て母は「私が猫として想定する大きさの範疇を超えているし,なにより脚が24本もあるのは哺乳類として,どうか」つまり「でかいし,ムカデみたいで,気持ち悪い」という見解を示し,結局,捨ててくるよう命じました.私が失望したのは,つっこみポイントが違うのだということ.正しいつっこみポイントは「耳から汁が出続けていること」と「背中が小物入れになっていること」で,身体の大きさと脚の多さをつっこむのはずれているし,また,その「ずれ」は面白さを生み出す「ずれ」ではない.なんてセンスのない母! それから,小物入れを開けるときに流れるオルゴールのねじが猫の運動を利用して自動的に巻かれるという機構について何らの評価も与えなかったことに,母の,人としてのどうしようもなさが象徴的に現れていると思いました.私は母をあきらめました.
 私が居間で24個の肉球を順番に押して遊んでいた午後8時に父が帰宅するとすぐに冷蔵庫から缶ビールと母を取り出して「どうして冷やしたんだ」と言いました.「だって,お父さん,毎日帰ってくると必ず,まず,ビールを飲むじゃない」父は納得したようでビールのプルタブを開けながら「『頭を冷やす』ね」と呟いた後,よく冷えた母が「私と,私の娘であるあなたと,両者の間にある猫を,心にかけない飲みっぷり」とひんやり言いました.違う! この場面での正しいつっこみポイントは,私の頭の上でおばあちゃんが高速回転していること,なのに.私と母との関係を回復させられたかもしれない最後の機会をさりげなく逃す母.こうやって,これからも,さりげなく,母自身の気づかないうちに,あらゆる瞬間を指の隙間から零れ落としていくのかと思うと,突然,母への愛が,揺るがしがたい,見ずにはいられない,確かにそこにある,母への愛が! ああ,私が,愛で,満たされる!
 大学からの帰り道に寄ったスーパーマーケットのレジに,私の猫がいました.母は体調を悪くしたのでしょう.でも,これをきっかけに母は,このまま毎日代わりに行かせて自分は家で寝るようになるかもしれないので,家に帰ったらすぐに母の頭を冷やさなければなりません.それで体調も良くなるかもしれませんし.