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創作のブログです。

にせスペクトル

 本日,卒業研究の中間発表会が行われた.
 音関係の研究をしているらしい,ある学生(留学生)のPowerPointを利用したプレゼンテーション用の資料に「にせスペクトル」という語句が書かれているのを見つけて,まず呆気にとられ,それから抑え難いおかしみが込み上げてきたので,笑い出さないよう耐えるのに必死で,彼のそれ以降の発表をほとんど覚えていない.
 窓関数を用いずに(両端の値が一致しない)切り出した波形に対してDFT(FFT)をかけたとき,DFTでは波形が連続しているものと仮定して計算しているために,両端に不連続点が生じ,実際には存在しない周波数成分が現れる(スペクトルの誤差が生ずる).その誤差を彼は「にせスペクトル」と呼んだらしい.
 「偽」ではなく「にせ」であること.そこに「スペクトル」という術語が続くこと.その「にせスペクトル」が中間発表会という場へ不意に現出すること……とにかく,「にせスペクトル」という言葉の感じが,無性におかしくておかしくて.彼が「にせスペクトル」を正しい日本語と信じて使用していると僕は推断するが,その真面目さが「にせスペクトル」という絶妙の言葉を生み出したのかと思うと,感慨深い.

 それにしても,事前に資料を確認したはずの彼の担当教官がその誤りを指摘しなかったのは,彼女の意地悪によるのか,見落としによるのか(しかし一度でも目を通せば,見落とすはずはない,ありえない),それともまさか確認していないのかを僕は断定し得ないが,どれにせよ,彼女の教師としての不適任を「にせスペクトル」はよく示している,と思う.