びっくりした話

　カレー屋のカウンターでドラムスティック（骨付き鶏もも肉）のカレーライスを一人食べていた僕は，ドラムスティックを手づかみで食べるときに手がカレーで汚れるのが嫌だなあ，と，ドラムスティックを口に運ぶ直前，気だるげにぽつりと「ンモゥー，手グァ，ヴェッタヴェッタ，スルワァー……」と片言でつぶやいたらワンテンポ遅れて，左どなりのスーツを着た男の人が口からぶびょぅお，とカレーライスをふき出したのでした．
　僕はとてもびっくりして「ど，ど，ど，ど，どうしてなのですかー？　ど，ど，ど，」と，ど，ど，ど，ど，言いながら飛び散ったカレーを慌ててヴェッタヴェッタの手でかき集めて，彼に「ど，ど，ど，ど，どうぞ」と差し出しました．彼はぽやんとした目で僕をただ見るばかり．僕はとてもびっくりして「ど，ど，どうしても？　どうしても？　やっぱり？　要りませんよね，要りませんよねぇええ」と彼に差し出していた両手のカレーをぶぅんと彼とは反対の右側にほうったら，後ろの席のおばあさんの顔がヴェッタヴェッタになっちゃって．もう，なにがなんだか．