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創作のブログです。

中学1年国語2学期中間試験問題

問題
 夏休み中に経験したことについて400字以内で書きなさい.ただし,「祖父がこんなに色気づくのを見たのは初めてでした.」という一文を必ず入れること.


解答
 夏季休業中の自由研究のテーマとして,私は,キュウリの栽培を選択した.その研究の目的を,慣行栽培との比較において生育期間を10分の1以下に短縮せしめることに設定した私は,研究を8月25日から開始したのであった.(夏季休業終了は31日.)研究内容(「生育期間を10分の1以下に短縮せしめる」ためにとった手法とその結果と)について詳説することはここにおける私の本意ではなく,また紙幅にそれをなし得るだけの余裕がないのであるが,とりあえず概略のみを書けば,その手法は,通常の方法によりキュウリを栽培しつつ,折々に「早く育てよ」とか「まだかよ」とかの言葉をかけて栽培を促進するというものであって,その結果,キュウリは実をつけることなく枯死したのであった.
 研究を開始した8月25日は,晴天の,残暑の厳しい日であった.土と肥料とを混合し,プランターへ入れ,種を植え,支柱を立てる,と書くのは簡単だが,案外時間と手間を要し,疲労しもするその作業をベランダで黙々と進める父を自室から見やりながら,数日後には実るであろうキュウリに思いを馳せていた日の翌朝,私は夢を見た.「キュウリとトマトが5:5の割合で,キュウリはできている」ということを,父に熱っぽく語った後,さらに,自室にある鉢植えのどうみてもナスとゴーヤのなった蔓性の植物を指して「これはキュウリ6:トマト4だから,まだキュウリ」と私が熱辯するという内容であった.
 「キュウリとトマトが5:5の割合で,キュウリはできている」というのは,「キュウリはトマトである」と言うのと結局同じであると(別に,例えば数列についての基礎的な知識があろうとなかろうと)理解されるものであるが,念のため,このことを簡単に明らかにしておく.
 「キュウリとトマトが5:5の割合で,キュウリはできている」というのは便宜上キュウリをC,トマトをTと表すと,
C = \frac{1}{2}T+\frac{1}{2}C
となるが,キュウリの中に含まれるキュウリに対してもこれが再帰的に適用せられて
C = \frac{1}{2}T+\frac{1}{2}(\frac{1}{2}T+\frac{1}{2}C) = \frac{1}{2}T+\left(\frac{1}{2}\right)^2T+\left(\frac{1}{2}\right)^2C
結局,
C = \left(\frac{1}{2}\right)T+\left(\frac{1}{2}\right)^2T+\left(\frac{1}{2}\right)^3T+\cdots
この第n項までを以下のように表す.
C_n = \left(\frac{1}{2}\right)T+\left(\frac{1}{2}\right)^2T+\left(\frac{1}{2}\right)^3T+\cdots+\left(\frac{1}{2}\right)^{n-1}T+\left(\frac{1}{2}\right)^nT
この両辺に2をかけて
2C_n = T+\left(\frac{1}{2}\right)T+\left(\frac{1}{2}\right)^2T+\cdots+\left(\frac{1}{2}\right)^{n-2}T+\left(\frac{1}{2}\right)^{n-1}T
これらを辺々引いて
(1-2)C_n = -T+\left(\frac{1}{2}\right)^nT
C_n = T-\left(\frac{1}{2}\right)^nT
C = \lim_{n\to\infty}C_n = T
となり,したがって,キュウリはトマトである.当然,「キュウリ6:トマト4」であってもキュウリはトマトなのだから,これもキュウリである.
 その朝,起きると父に発芽したことを伝えられ,ベランダに駆け出してみると確かにプランターからいくつかのかわいらしい双葉が芽を出していた.
 「先生,孫の作ったキュウリを,見てやってください」と,この文章を試験中に書いていたところ,教室の前のドアが開いて,キュウリのつまったダンボールを抱えた祖父が申し訳なさそうに入ってきた.「孫の作ったキュウリですから」と生徒ひとりひとりの口にキュウリを突っ込んでまわるうちに,徐々に,「キュウリですから! キュウリですから!」と動きはリズミカルになり,しまいに教室内を駆け回りながら生徒の口めがけてキュウリをピッチングし始めた祖父の,曲がっていた背筋は伸び,その肌は瑞々しく,飛び交うつややかなキュウリの黒に近い紫と相まって,官能的な,あまりに官能的な……祖父がこんなに色気づくのを見たのは初めてでした.
 私の口にキュウリが飛び込んだとき,私は朦朧とする意識の中で,これが農業なんだなあ,と思いました.



採点者講評
 平野君が,お父さんやお祖父さんにとても愛されていることがよくわかる作文でした.
 平野君のお祖父さんがキュウリ(「どうみてもナス」でしたが,「キュウリ6:トマト4だから,まだキュウリ」なんですね)を投げつけていた様は,非常に生き生きとはしていましたが,「色気づい」てはいなかったのではないでしょうか.むしろそこに官能性を見出した平野君こそが「色気づいた」のではないかと思います.「色気づく」という言葉の意味を,もう少しよく考えて見ましょう.
 今回の期末試験の作文の問題で田中君が満点でしたから,その解答を読んでおいてください.

 今年の夏休みは,職場体験でレストランの仕事のお手伝いをさせていただきました.
 最初,あいさつの仕方から教えていただきました.簡単なことですが,とても大切です.お客様は店に入ってすぐ,店員の「いらっしゃいませ」というあいさつを聞くからです.そこでお客様の店への印象が決まってしまいます.お客様がお店を出るときも,さわやかに「ありがとうございました」と言って,お客様がまたお店に来たいと思えるようにします.次に,注文のとりかたを教えていただきました.間違えないように,正確に聞かなければだめなので,とてもきん張しました.それから料理ができたらテーブルに運びます.料理ができるまで,お店の中を回って,水が無いかとかに注意します.たった1日だけでしたが,仕事をすることの大変さがわかり,とてもよい経験になりました.
 ところで,祖父が色気づきました.祖父がこんなに色気づくのを見たのは初めてでした.


 ただ,どの道,平野君の解答は規定文字数をはるかに超えていますから,駄目です.