OjohmbonX

創作のブログです。

消えたテトリスはどこへいくの?

 テトリスのブロックって,気づかないうちに溜まってるんですよね.溜まるっていっても10個・1列並べれば簡単に消えるんだし溜めると邪魔なので誰でも適当に消したりしてますよね.みんなそうだと思うんですが,僕も小さいころから親に「溜めないで消しなさい」とよく言われていたし,「溜まったら,消す」と学校でも習うので習慣になってました.たまに夕方のテレビのニュースで,何十年と溜めてしまったおじいさんの近所からテトリス屋敷と呼ばれている家にやってきた市の職員がせっせと消していくのにおじいさんが涙を流しながら抵抗している,というような映像を見たりはしますが,まあ,そんな人も世の中にはいる,なんてもので普通,消します.
 大学生になって一人暮らしをするようになって,実験やら試験やらバイトやらが重なって忙しかった時期が一段落してみたら,結構溜まってることに気づいて,もちろん4列いっぺんに消せば高得点が得られるのでテレビ見ながら端1列を残してきれいに積んでいたら,なんとなく消すのが惜しくなってきて,このまま溜めてみようかしらん,という気になったのがはじめ.
 2週間くらいすると,いつの間にか自分からテトリスのブロックを集めるようになってて,もうダメです.


 とうとう500列を突破して,基本的テトリスのことしか考えないようになっていた夏のある日,大学から帰ってアパートのカギを回してドアを開けようとしたら開かなくて,ああカギをかけ忘れたんだなあと思ってもう一度カギを回してドアを開けると母がいて
「おかえり,お米とか持ってきたよ」なんて言いながら消してるんです,僕のテトリス
「ちょ,えっ? なに,ちょ,えぇっ!? ちょっ,」
 靴がうまく脱げずに玄関で転げまわってると
「なにビックリしとるの.カギあいとったから,入っただけやて.荷物置いて帰るつもりやったけど」
「何してるの,やめてよ,な,な,なんで勝手に」
「勝手にって……今日行くことメールで言っといたから,カギあけといてくれたんやと思って.なにぃ,かけ忘れただけやったの?」
「違う! それ,それ,僕のテトリス,」
「ほんとやめてよ恥ずかしいねえこんなに溜めて,しょうがないからお母さんホームセンターでテトリ棒をいっぱい買ってきたわ」

 傍らのダンボール箱からテトリ棒をリズムよく取り出してどんどん消していく母.
「消しても消してもキリがないわ」
 僕は,無我夢中でたまたま手元にあったクセモノ♀を隙間に詰めてフタ!

 帰りにクセモノ♀を拾ってきてよかった.これでひとまず,と少し安心したのだが

 母はそのままのリズムでテトリ棒を詰め

消し続けるのだった.
「やめ,やめてよ!」
「こんなに溜めて,どうしようもないやんか」
「えぇっ……,あん,たとえば,ヤフオクで売れるかもしれんやん!」
「頭,腐れてまったの?」
 同じリズムで消し続けるのだった.
 とにかく,靴を蹴りとばして,母を止めようと駆け寄ったら,テトリ棒で殴られた.殴りながら,消し続けるのだった.
 何がなんだか,もう,痛いわ悔しいわで,涙が出てきて,
「なにぃ,泣いとるの?」とさすがに母も驚きながら,消し続けるのだった.
 部屋に散らばっていた整理前のブロックを,手当たりしだい,ぐちゃぐちゃに積んでいくのに,母は,部屋のブロックを使ったり,T-Spinを駆使したりして,僕がぐちゃぐちゃにするより早く綺麗にしていって,その合間に,どんどん消し続けるのだった.
「お母さんはね,あんたみたいなDS世代やないの.ザ・グランドマスター世代なの.私は,グランドマスターなんやから!」


「じゃあ,お母さん帰るね」
 引越しの前に不動産屋と見に来た場面がふいに思い出されるほど広々とした部屋に,これまでテトリスに塞がれていた窓から夕日が入って床を照らすのを椅子にだらしなく座って眺めながら,なんでテトリス集めてたんだろ,と思った.