OjohmbonX

創作のブログです。

妻はRIKACO系int型

 残念ながら私の妻はRIKACO系なので未来永劫うざいのですが,テレビ朝日の社員が<民間の駐車監視員の腕をつかむなどして業務を妨害したとして公務執行妨害の現行犯で逮捕>されたという報道ステーションが番組終了間際に紹介したニュースに対して古舘伊知郎は<報道という批判する側の怠慢>とか<私たちも気を引き締めなければならないと改めて思います>とか大真面目な顔で大仰に馬鹿なことを言うので呆れ返って,フリーターでも電機メーカー勤務でも主婦でも教師でもこういったことをする人はするし,普段だったらしない人でも虫の居所が悪かったり普通ではない状態だったらしてしまうことだってあるだろうに,というようなことを妻に言うと――もちろん,妻に話をする,ということそのものが愚かでなければならないのです.なぜなら妻はRIKACO系なのですから――妻は目をひん剥いて(それに伴って額に3本のしわが刻まれる)「あなた,これ,公務執行妨害なのよ? してもいいっていうの? そんなわけないじゃない,公務執行妨害なのよ? これ,公務執行妨害なんだから」とやっぱり曲解するのでした.
 もちろん私は,誰にだってあることなんだから仕方が無い,なんて言っているわけではないし,いさかいなんて無いに越したことはないとも思っているし,言いたかったのは,報道関係者であることとこの犯罪とは本来無関係であるのに安直に結びつけて<報道という批判する側の怠慢>なんて言うのはどうかしている,そういった安直な結びつけを疑わないことこそ思考の<怠慢>ってものじゃあないの,ということなのだと説明すると,妻はしばらく腕を組んで眉間に皺を寄せて「うーん」と本当に発声してから腕組みを解いて手を腰の両脇にあてて深刻そうに「やっぱり,いけないことだと思う.だって,公務執行妨害なんだから」と言うのでした.午後11時40分です.明日は午前6時に起きる予定です.
公務執行妨害しても良いって言うんなら」,そうじゃない,と言いかけるのを妻は「わかってる」という様子でうんうん頷いて手で制してから「しても仕方が無いって言うんだから,あなたは,テレビ朝日がこの社員を解雇するのもダメって言うんでしょ」と,したことは仕方が無い(というより,取り返しがつかない)のは当然だけれど,することは仕方が無いわけではないし,何が<だから>なのかわからないのだけれど,それはさて置いて「もちろん,この犯罪そのものを理由にして解雇するのなら,僕は反対する」ととりあえず質問に答えると妻は「やっぱり」という顔をしたので何か言い出す前に,解雇するのであれば,この出来事によってこの職業に必要な能力――例えば,感情をある程度コントロールする能力――の欠如が認められたからとかの理由でしなければならない,と説明しました.
 すると「あなた,テレビ朝日がこの事件を言わずに隠しててもいいと思ってるんでしょ」と相変わらず突拍子も無いことを聞くのだけれど,その突拍子の無さを指摘する気力など全く無く「隠しちゃだめだけど,言わなくてもいいとは思ってるよ」と答えたのでした.有名な大学教授が手鏡でスカートの中を覗けば大きなニュースになるけど<普通の人>が同しことしても大したニュースにならんでしょ.それは,有名な大学教授だってことと覗きを繋げたいっていう視聴者の俗情を受け入れちゃってるからでしょ.報道ステーションでこの事件を伝えるのは,言わないと批判されるとか,言えばかえって自己批判ができてるなんて良く思われるとか,そういった製作者の俗情をもろに反映してるんでしょ.テレビ番組って全部そうでしょうよ,<俗情との結託>そのものでしょう,もっとも,あんたんとこの社員事件起こしたんやって? と訊かれて,してない,と嘘を言ったり黙ったりするのはダメだけどね,とうんざりしながら話していると,突然妻は「もういい,そんな人だと思わなかった! 私もう寝るから.もうこんな時間じゃない,勘弁してよ!」と指差した壁掛け時計は午前0時20分を示していました.
 憤懣やるかたなし,といった様子で寝室に入る妻を呆然と見送ってしばらくしてから私も寝室へ行くと妻はすでに眠っていました.あれだけ興奮していても寝つきのよい妻に感心しつつ起こさないように静かにパジャマに着替えてそうっとベッドに入りましたが,不当に非難されること,アホに本気でアホと思われることは耐え難く,そういえばついこの間も大きな交差点で右折しようとしたときに対向車が来ていたからとまっていたのに後続の右折車にクラクションを鳴らされたけれどあれこそ<憤懣やるかたな>いし,だいたいどうしてこの人と結婚してしまったんだろうか,あれだけ言葉を尽くしても何一つ理解されないどころか誤解されたままだし,そんなことは付き合っているころからわかっていたはずなのだけれど,論理的な思考というものができない種類の妻なのかしら,それなりに大学だって出てるのになあ,といろいろなことを考えてしまって全然寝付かれない上に,寝付きはいいくせにすぐに目を覚まして私を怒る妻に気遣って,というより面倒くさいので起こさないように寝返りもうてないのがさらに苛々を募らせて,離婚しちゃいたいな,幸い(?)子供もいないし,あんなにアホなんだもの,離婚しちゃいたいな,というようなことを考えていて結局寝たのは午前3時くらいでした.


 午前6時に起きて――もちろん妻は「早く目覚まし止めてよ,眠いんだから」と文句を言ってまたすみやかに眠ったのでした――身支度を整えて朝食を食べて――もちろん妻は寝ているのですから朝食を用意するのは私です――出かけようとしたところに珍しく妻が起きてきて「昨日はちょっと言い過ぎたかもしんない.でも,あれからよく考えたんだけど,やっぱり,違うと思う」とずっと寝ていたくせにいつ考えていたのかわからない,公務執行妨害はやっぱりいけない,という話を長々とするのを黙って聞いていると最後に「やっぱりさあ正直に生きていかなきゃダメって,みのもんただって言うと思うしね」と,今私いいこと言った,という満足げな顔で目を閉じてうんうんとうなずくのでした.権威(?)にまるまる盲目的に立脚して話す/書く人には大概腹の立つものですが,みのもんたという権威(??)の言ってすらいないことにまるまる盲目的に立脚して話した妻を見て,私は,

while(--妻 > 1);

を実行して家を飛び出したのでした.


 仕事中でも帰途でも急速にデクリメントしていく妻が頻繁に想像されて,さすがに悪いことをしたなあやりすぎたなあと思いながら家に帰るとすっかり1になった妻がなぜか晴れやかな表情で出迎えて「今日ねえ,大学んときの友達に会ったから話したの.あなたが公務執行妨害賛成派だって.そしたらみんな怒っちゃって.しかも私どんどん減ってくでしょ.で,あなたにデクリメントされてるって言ったらみんな離婚しなさい,って言い出して.<これまであなたにはいろいろと支えられてきたし,私も支えてきた>けど,やっぱり<価値観がお互いに違う>っていうか……<私もこれからポジティブに頑張っていくし,あなたも今まで以上に頑張っていかなきゃいけないと思う>」とあいまいなことを言う妻を,寝不足でいらいらしていたことも手伝って

while()
  妻++;

インクリメントしました.離散的にものすごい速さで1ずつ増加していく妻を,案外冷静に見つめながら,ああ,そうか,こういった状態だと<公務執行妨害>しちゃうのかな,なんて考えていると妻はオーバーフローして床がびっちゃびちゃ.