OjohmbonX

創作のブログです。

みりんの話

 2002年3月に刊行が始まってから毎月1巻か2巻ずつ出ている「ゴルゴ13」のリイド社の文庫版を毎月かかさず買っています.もちろん,104巻も発売日の5月31日に買いました.読んだら104巻もすごくゴルゴだったので,満足して本棚に入れようとしたら103巻がないんです.いろいろ探したり考えたりしてみたけれど,どうも先月買い忘れたみたい.あおお〜〜〜〜っ!! あ,この「あおお〜〜〜〜っ!!」というのは,ゴルゴが美人の女の人とバトルするときの女の人の叫び声です.このバトルは,ゴルゴが仕事をする前に,ホテルとか小屋とか野外とかで美人の女の人とゴルゴが二人っきりになったときに,女の人から申し入れられます.たとえばこんな具合に.


例1.
 小屋の中の干草に女の人が触れながら「……わたし……このにおいに弱いの……このにおいをかいでいるとなんだか……メスの本能が刺激される……」と言う.「…………」無言でものすごく鋭い横目で女の人をにらみつけるゴルゴ.それを半開きの口,上目遣いで見つめる女の人.次のページ.バトル!「あおお〜〜〜〜っ!!」


例2.
 ロベンという島に潜入する直前のゴルゴがホテルで依頼者側の女の人から必要なものを受け取る.受け渡しと話が済んだ後,女の人は突然服を脱ぎ始める.「ロベン島には”女”はいないわ……私からの”餞別”を……受け取ってくださらない?」「…………」無言でものすごく鋭い横目で女の人をにらみつけるゴルゴ.それを半開きの口,上目遣いで見つめる女の人.次のページ.バトル!「あああ〜〜〜〜ッ!!」「おおお〜〜〜〜ッ!!」


 このバトルの意味が僕にはよくわかりません.でも僕だったら,いきなり女の人が裸になったらすごくびっくりするのに,ゴルゴは全然びっくりしないのですごいです.しかも,バトルでは女の人が苦しそうな顔で「あおお〜〜〜〜っ!!」と叫ぶのに,ゴルゴは無言無表情なので,たぶんゴルゴが勝ってるんだと思うから,やっぱりゴルゴはすごいです.ゴルゴはすごいのに,僕は103巻を買い忘れました.


 それから数日経ったある日の午後に家で一人のんびり2ちゃんねるの「ゴル速板」を見るなどして過ごしていたら,いきなり玄関のドアノブがガチャガチャされたかと思ったらドゴーンドゴーンという爆音がしてドアがふっとばされて
「ちわー,ゴルゴでーす」
と濃紺の前掛けの御用聞きスタイルのゴルゴが現れました.それから,ゴルゴは無言で玄関に立っているばかりで,僕は困ってしまいました.お酒もお醤油も,うちはスーパーで買ってるのになあ……
「あのぅ,お酒もお醤油も間に合ってます……」
「…………」
「ええと,せっかくドアまで破壊してお越しいただいたのに,すみませんが……」
「…………」
「あ,じゃあ,あのう,みりんを下さい」
「…………」
「あの,ちょうど無かったんですよ,みりんが! いやあ,いいタイミングでした,ほんと,すごい欲しかったんです,みりんとか……みりんみたいなのが,」
「……”みりん”を注文するために……俺を呼んだわけではないはずだ……」
 そう言うとゴルゴは僕の足元に新聞を投げて寄越しました.それは昨日付けの岐阜新聞で,「”G13”型トラクター買います」という広告に赤い丸印がつけてありました.あおお〜〜〜〜っ!! すっかり忘れていたけれど,103巻の買い忘れを謝ろうと思ってゴルゴにコンタクトをとろうとしたのでした.
「そんなことはどうでもいいんですけど,なんで御用聞きの格好をしているんですか?」
「このあたりには……”三河屋”の”サブちゃん”という男がいるようだが……」
 僕は愕然としました.実際,おしっこを比較的たくさん漏らしました.サブちゃんこと三河屋の三郎さんは日本の関東から東海地方までをテリトリーにする御用聞きで,敵対する勢力や個人をことごとく葬り去ってきました.サブちゃんにこれが見つかったら……いや,ゴルゴなら,あるいは……
「ちわー,三河屋でーす」
 あおお〜〜〜〜っ!! 来ちゃった,サブちゃん来ちゃった! もうおしっこだだ漏れ.
「あれ,こちらは,どちら様ですか?」
「あの,違うんです! この人は,みりんを,」
「みりん?」
「いや,いや,みりんを注文しただけ,あ,いや,」
「いやだなぁ〜みりんならウチで注文してくださいよ〜」
「違っ,この人は,すごく眉毛が太いんですけど,違うんです,コスプレマニアで,変態なんです! ど変態なんです!! 前掛けに興奮するど変態でっ!!」
「…………」
「ん〜困ったなあ〜……二人も御用聞きはいらないんだけどなあ〜」
 そう言ってサブちゃんは家の中に勝手に上がりこんで「あなたもこちらへどうぞ〜」と僕の部屋へと入っていきました.サブちゃんについて部屋に入るゴルゴを追いかけると,サブちゃんは部屋の中で前掛けを外して,来ている服を脱ぎ始めました.
「バトルで決めませんか」
「…………」
 ゴルゴは無言で,ものすごく鋭い横目でサブちゃんをにらみつけています.そんなゴルゴを半開きの口,上目遣いで見つめるサブちゃん.やばい! バトルが始まる!
「待ってください! もとは僕が買い忘れたのが悪いんです.僕がバトルします!」
「ちゃんと注文してくださったみりんはお届けしますから.バトルは君みたいな子供には無理だよ」
「…………」
 ゴルゴは手で僕を制して,服を脱ぎ始めました.


「あおお〜〜〜〜っ!!」
「…………」
 やはりゴルゴの優勢です.サブちゃんは僕の布団をつかんでとても苦しそうです.
 僕のベッドの上でバトルを繰り広げる二人を見つめながら,やっぱり発端は僕にあるんだし,「子供」って言われたけど僕だってもう21歳なんだから,何かしなきゃいけないと思って,合いの手をいれることにしました.ベッドの脇で,僕は,一生懸命「あおお〜〜」と叫びました.ときどき手拍子もいれました.
「あおお〜〜,あおお〜〜」
「…………」
「あ,ああ〜〜〜〜っ!!」
「あおお〜〜,あおお〜〜」
「…………」
「おお〜〜〜ッ!!」


 バトルが終わりました.
 サブちゃんも僕もぐったりしている中,ゴルゴはさっさと服を着て出て行きました.やはりゴルゴの一人勝ちです.
 ゴルゴは僕に「……お前の欲していた”みりん”は,玄関にある……」と言い残して部屋を去りました.しばらくして少し疲れが取れてから玄関に行ってみると,そこには僕の漏らしたおしっこの水溜りがあるだけでした.全ての謎が,氷解しました.みりんは,おしっこだったのです.ということは,味噌は……


 翌日,「ゴルゴ13」の103巻を買いました.