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創作のブログです。

三者三様の、あるいは三つ巴の、あるいは三位一体の、奇跡

 赤ちゃんポスト(あかちゃんポスト)とは、諸事情のために育てることのできない新生児を親が匿名で養子に出すための容器、およびそのシステムの通称である。
(日本語版『ウィキペディア』「赤ちゃんポスト」)


 紳士は、「赤ちゃんポスト」を特輯したテレビ番組を見ながら、果たして「赤ちゃんポスト」に入れられる乳呑み児の心細さはいかばかりか、と思った。


 中学生のシンタは、慈恵病院で「赤ちゃんポスト」に新生児が入れられるとブザーで看護士らに知らせるようになっているのを知って、赤ちゃんにはすぐミルクをあげなきゃいけないからなあ、と考えた。


 中学生のタカシは、布団の中である同級生と自分との望ましい場面を可能な限りリアルに空想してゆく過程で性的な衝迫を感じつつ、眠りに入った。


 朝、登校途中の道端で、紳士が「赤ちゃんポスト」と黒のマジックで書かれた浅いダンボール箱の中で正座しているのを目にしたシンタは、すぐミルクをあげなきゃ、と、学生服とカッターシャツのボタンをすばやく外し紳士の眼前に胸をさらし「乳首を吸ってください」と言った。しかし紳士は「私には社会的な地位がありますから、公衆の面前で乳首は吸えません」と断った。「そんなこと言ってる場合じゃない、はやく吸って!」ふうむ、この中学生とみえる彼には、乳首を吸われねばならない、私には計り知れない切迫した事情が、何やらあるようだ……。紳士は、シンタの乳首を吸った。
 シンタが見知らぬ紳士に乳を吸われている場面に遭遇し、タカシはやりきれない腹立ちを感じた。先を越された! シンタの乳首ヴァージンが、見知らぬ紳士に奪われた! タカシは、もはやせめて、自分の乳首ヴァージンをシンタにやりたいと考えた。タカシは胸をあらわにしつつ2人に駆け寄り「俺の乳首を吸ってくれ」とシンタに申し出た。ああ、僕が紳士にミルクを吸われている分(まだ出てないけど)タカシが僕に補充してくれるということなのか。なんて、友情に篤いやつなんだろう……。シンタは、タカシの乳首を吸った。
 紳士は当惑した。なんと、別の中学生まで乳首を他人に吸わせ始めたではないか。私は越して浅いから知らぬだけで、ここらには朝、他人に乳首を吸わせる慣習があるのか。あるいは宗教的なものかもしれない。彼らの慌てぶりからするに、戒律で時間が定められているようでもある。私は、特に宗教を信仰しているわけではないが、<郷に入っては郷に従え>という俚諺もある……。紳士は胸をあらわにし、シンタの乳首を吸いつつも、タカシを見据え、指で自分の乳首を指し示した。ふうん、この紳士、こんな小汚いダンボールに入って、男子中学生の乳首を吸いながら、自分の乳首を男子中学生に吸わせようとしているぜ! 信じられないド変態じゃねえか! タカシは、紳士の乳首を吸った。タカシは、ド変態に比較的寛容だったのだ。
 乳首を吸って吸われている3人の頭上に、突如、母乳のシャワーが降り注いだ。紳士の背後にあるアパートの3階のベランダから、乳房をむんずとつかんでヤンママが、母乳をまきちらしていたのだ。これは、ヤンママの習慣だった。アパートの1階に「母乳をまかないでください。苦情きてます」という大家の貼り紙があるのを知っていたが、ヤンキー精神が抜けきらないため、反発してさらに母乳をまいてしまうのだった。


 乳首を吸って吸われる3人に母乳シャワーが降り注ぐ映像がYouTubeで公開され、世界中の人々がその奇跡を目撃した。奇跡は目撃者に、ノスタルジーといったものとは全く異なる、何か根源的な感動を、あるいは性的衝迫を、与えた。
 そしてついに、ある世界的な宗教にその奇跡が認められ、3人は生きながらにして聖人に列せられることとなった(ヤンママは体調不良を理由に辞退)。訪日したその世界的な宗教の<精神的指導者>は、3人の聖人を前にして「男のミルクはもっと下のほうから出るんだよー」と言ってみたくなった。真実のド変態だからだ。しかし、彼の社会的な地位が許さなかったため、<精神的指導者>は自叙伝に書くのみで、言うのを我慢したのだった。