OjohmbonX

創作のブログです。

ピンピン、コロリ

 大型家電量販店、ずらりと並んだ十数台すべての洗濯機から頭だけを出したバアさんたちがゴウンゴウンいいながら回っていた。その前で店員が腹を抱えて笑い転げまわっていた。客の対応を面倒臭がった店員が来るババア来るババア全員に「性能が気になるなら自分で試せばいいですよ」と答えたところ、自主的に洗濯機に入り込んでババアどもが回り始めたのだから、店員は可笑しくて可笑しくて仕方がないのだった。
 ゆっくり回転が止まり「これに決めたわ」と言いながらバアさんたちは嬉しそうに洗濯機から這い出て、店員を伴い、マッサージチェアのコーナーへ向かった。ずらりと並んだチェアにマッサージされて気持ちよく眠るジイさんたち。バアさんどもの買い物を待っていた彼らを起こしに来たのだ。しかしジイさんたちは目覚めなかった。ことごとく死去していたのである。ババアは洗濯機に回されてもピンピンしているというのに、ジジイはマッサージチェアでコロリ。困ったものである。
 バアさんたちは悲嘆に暮れ、洗濯機も買わずにそれぞれ自身の夫の屍骸をめいめい持ち帰った。しかし驚くべきことに1体のジイさんが余ってしまった。はぐれジイさんである。店員は困惑した。困惑して、俺を見た。そして目の前で両手を合わせて「たのむよ」のポーズをした。俺、関係ないのに。でも仕方がないから、俺ははぐれジイさんを家に持ち帰った。
 しかしお母さんは俺を叱った。
「捨ててらっしゃい」
「そんなあ、ちゃんと世話するから飼っていいでしょ。エサもあげるし、散歩だって連れてくし、シツケも……」
「何いってるの。死んでるじゃないの」
「えへへー。ばれたかー」
 俺は悲嘆に暮れ、ジイさんを捨てに行った。
「銀次郎さん!」
 鋭い叫びに驚いて振り返ると、見知らぬおばあさんが高速(たぶん、マッハ4くらい)で俺に迫ってきた。
「あんた、あたしの夫をどうして運んでるのよ。返しなさいよ。あたしの愛する銀次郎さんを」
「でも、死んでますよ」
「どっちでもいいわよ!!」
 おばあさんは銀次郎さんを俺の手からひったくって、低速(それでもマッハ1.5くらい)でどこかへ行ってしまった。俺の手には代わりに3千円が握らされていた。
 その夜、家族で夕飯を食べているときに玄関のチャイムが鳴った。さっきのおばあさんだった。
「よく見たら全然銀次郎さんじゃない。だましたな」
「騙すだなんてそんな……」
「あたしを騙そうったってそうはいかない。あたしの記憶ははっきりしてる。銀次郎はね、2年前に死んで、ちゃんと墓も立っとるわ! なめるな!」
 おばあさんはニセ銀次郎を玄関にポイ捨てした。現代日本では消費者保護が進み、クーリングオフ制度などが整備されている。それにしても、ニセ銀次郎はかなりおばあさんに使い込まれてしまったようだ。どう見てもエッチな利用法で……。女は、いつまで経っても女である。おばあさんは俺の財布をふんだくって夜の闇に消えた。明らかに3千円以上入っていたのに。
 しょうがないから、「かわいがってください。ニセ銀次郎といいます」とマジックで書いたダンボールにニセ銀次郎を入れて、公園に置いてきた。翌朝、ダンボールを残してニセ銀次郎は消えていた。
 捨てる神あれば拾う神あり、っていうしね!