OjohmbonX

創作のブログです。

親子鷹

「お父さん、いっぱい会社で残業して作ったんだ。気に入ってくれたかな?」
 いつも寝起きが悪いタケオくんだけど一気に目が覚めた。遮光カーテンの透き間から漏れ入る朝日でぼんやりした部屋、お父さんが静かに枕元に立っていた。厚紙でできた直径2メートルくらいの円盤の服(?)を上半身に着て、下半身はパンストを履き、静かにこのクリスマスの朝、お父さんは立っていた。
「それなに?」
「もちろんプレゼントに決まってるじゃないか!」
 円盤の側面にはマジックで黒く「ベイブレード」と書かれていた。たしかにタケオくんはサンタさんにベイブレードをお願いしていたのだが。


「お父さんは絶対最強なんだぞ」
 デパートのおもちゃ売り場に設置されたベイスタジアムでお父さんは高速回転してほかのベイブレードをことごとく吹っ飛ばした。タケオくんは泣きそうな顔でそれを見ていた。もともと遊んでいた男の子たちはとっくに泣いていた。お父さんのベイブレードはセロテープで止めていたところが取れたり、へこんだりへしゃげたりして、もうぐちゃぐちゃになっていた。男の子の何人かが、お父さんやお父さんのベイブレードにぶつかって転んだり怪我したりした。誰かのお父さんが飛んできて、思い切りグーでタケオくんのお父さんを殴り倒した。お父さんは停止した。
 立ったまま警察と店員さんに怒れられているお父さんの背中を後ろから見ていたタケオくんは急に涙がこみあげてきて、絶対に泣きたくなかったから我慢するために視線を下に落とすとお父さんのパンストが目に入って、あ、靴下の代わりか、ととつぜんふに落ちた。クリスマスのプレゼントだもんね。
「ねえぼく、すっごいベイブレード欲しくない?」
「うんほしい」
 タケオくんはいつの間にか横にいた知らないお兄さんについていってしまった。タケオくんは帰ってこなかった。


 お父さんは怒られてから、もう何もかもがどうでもよくなって会社も行かずに、タケオくんのこともどうでもよくなっていた。何もかもに一生懸命だったあのいいお父さんが誘拐された息子を探そうともしない。
 しかしタケオくんは2年後、自主的に帰ってきた。最強のベイブレーダーとして!(もっとも、もうベイブレードブームは消え去っていた。今はジャンケンが流行ってる。)自分の全ての技術をタケオくんに伝え切った伝説のベイブレーダー・お兄さんは彼の成長を見届け、そっと姿を消そうとしたがすみやかに警察に逮捕された。だって誘拐犯だから。しかもお兄さんはタケオくんにエッチなことをしたりしてたんだから。
 そうは言っても、誘拐された時点でタケオくんは23歳、お兄さんは28歳だったんだから、まあ、自由恋愛だよ。念のため言っておくけど、二人ともガチホモだからね。ガチムチ髭いも系デブ毛深。汗と肉。イケメンのきれいなセックスなんかじゃないよ。そういった種類のとりなしの想像力を我々は断じて唾棄する。