OjohmbonX

創作のブログです。

女神

 平日の昼間、息子のWii Fitをこっそりやるのがあたしの楽しみ。調子に乗って夕方までやってたら高校生の娘が帰ってきた。ちょうどヨガのトレーニングで、座禅を組んだまま空中に浮遊しているとこだった。
「お母さんすごい! もうWii Fit関係なくすごい!」
「画面の指示に従ってやってるだけよ。孝之にはナイショにしててね」
 ケンソンしてみたけど、あたしほんとはうれしい。昔から空気イスとか上手かったし。得意になって空中で高速回転してたら娘が泣き出した。
「あわわごめんね。お母さん、すぐに地上に降り立つから泣かないで(高速回転はやめないけど)」
「違うの。今日ね、同じクラスのイケメンをデートに誘ったの。そうしたら『わりぃ、俺、オナ禁するのに忙しいから』って断られたの。だから、お母さんはそのまま浮いてていいよ。あたしはひたすら涙を流しているから」
「ひどいわ! お母さん怒ったぞー。ヨガ・テレポート!」
 叫んだ直後、あたしはイケメンの自宅にいた。瞬間移動もWii Fitで習得した。
「おい、娘の同級生! オナニーするのに忙しいってんならわかるけど、オナ禁するのに忙しいなんて変じゃないか」
「違うんです!」
「黙れイケメン!」
「違うんです、あなたの娘を見ていると、いてもたってもいられなくなるんです。だから、オナ禁するのに忙しくて、だから、デートするなんてとても無理で、だから、だから、誤解なんです」
 イケメンは泣き崩れた。あたしはイケメンを許した。そしてあたしと一緒に娘の待つ家へテレポートするため、イケメンをあたしに抱きつかせた。泣きながら小声で「丸太みてぇ」と言うのを聞いた。夫には昔「こけしみたいでかわいいね」と泣きながら言われたあたしなのに。世代の差かねえ。ま、いいや。
「ヨガ・テレポート!」
 しかし二人は同じ部屋にいるままだった。
「ヨガ・テレポート! ヨガ・テレポート! ヨガ・テレポート! ヨガ・テレポート! おかしいわ。テレポートしない」
 実はテレポートしていたのである。地に足をつけたままのせいで地球ごと移動していたのである。地球は太陽系を離脱し当て所もなくさまよった。太陽の光の射さない冷たい地球で生物は死滅した。
 しかし死の世界でただ一匹の妖怪だけが生きていた。この妖怪、首から上が美輪明宏であるにもかかわらず、首から下が美輪明宏だった。
 よく見たら美輪明宏そのものだった。
 すごく黄色いからびっくりして妖怪と間違えた。ごめんね。がんばって生きてね。