OjohmbonX

創作のブログです。

2015-01-01から1年間の記事一覧

十九、二十歳

こんな夜中に掃除してる。クイックルワイパーでフローリングの床をざっと拭いて、ガラスのローテーブルの上はウェットティッシュで拭いたあと乾いたティッシュで跡にならないよう水分を拭き取った。 「ごめん。急なんだけど今から泊めてもらえないかな。」 …

王将のマナー

餃子の王将ではおばちゃん(ほとんどおばあさん)の店員が、カウンターに座るサラリーマンたちの背中を木の棒で叩いていた。早く食べて出ていけという意味だ。新しい客がなにか注文すると、フロアの女が「淫乱ガーゴイルー!」と厨房に向かって叫ぶ。厨房か…

奇跡の人

夜の町の曲がり角で小柄な老婆とぶつかりかけた。老婆は 「ウォーター。」 と言った。その抑揚を奇妙に欠いたイントネーションと、文脈にそぐわぬ言葉をいぶかって男がよくよく見れば、老婆ではなくまだ30前後の女だった。ヘレン・ケラーだった。彼女の太い…

Wiiのお墓

ひょっとして、Wiiがこわれたら、WiiUを買ってもらえるかもしれない、そのアイデアをはっきり意識した瞬間に、こういちは身震いというものを生まれてはじめて感じた。ものすごく頭と顔があつくなって全身の筋肉が、いてもたってもいられないというように二三…

熊ノ原

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 1 ああ、蒸すわね。50の男にはちょっとつらいかも。植物の息がこの森の空気を満たして、ああ、蒸すわあ。今日もお目当ての原っぱは見つからなかった。だけどそれっていつものことだから私、気にしない。足場は良くないけれど…

兄弟とただの他人

地元の子供だろう。親も見当たらない。真夏の日の中でおだやかに流れる川を泳いでいる。こちら側は広い川原だが、向こう岸は切り立った岩だ。子供たちが川を泳いで渡り、向こう岸の岩を軽々とよじ登っては、その上から川面に飛び込んでいく。飽きもせず繰り…

あの子じゃわからん 相談しましょ そうしましょ

よしさんとあれから進展あった? うん。 僕ね、君がよしさんのこと、恋煩いの事、話してくれて本当に嬉しいと思ってるんだよ。もちろんそれだけじゃなくて、バイトの事とか、学校の事とか、サークルの事とか、好きなアイドルやバンドの事とかいろいろ話して…

わずか5秒のうちに全員が黒い胸の虜になった

1999年7月15日の熱い教室で、吉田彩は陰口を背中の右半分で耐えていた。反応さえしなければ存在しないのと同じだと信じているような頑なさで、机の上に置いた手を一心にいじっていた。しかし陰口も、それをやり過ごすことも、同時に停止した。休み時間の教室…

ファントムの中で

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 1 透明なガラスケースを子供の指で叩きながら、持ってる、持ってる、持ってる、持ってない、持ってる、と壊れた花占いのように大声で呟いていた。ケースの中には遊戯王のカードが陳列されていたが、…

おだやかな生き地獄

もしぼくが今死んだら、と布団の中で考え始めてもし、ぼくが死んだらお父さんやお母さんが、天国で待ってて三人で暮らしていけると思った。それならいいかもしれない。死ぬのはこわい。でも学校生活もうれしくないことが多い。いやなことを言われたりする。…

ピーチジョン

「ありえなくね? 桃から出てくるとかありえなくね?」 「関係ないっしょ。ウチとだぁが付き合っててさ、ウチらの前に赤ちゃんがいるってことはさ、これって家族だと思うんだよね」 桃から生まれたからピーチジョンって名前にした。だぁはマジでビビりまくり…

こぼれる華になる

「ねえ、よっちゃん」 「おれは達樹だってば。たっちゃん。よっちゃんはお父さんでしょ。おばあちゃん、ボケちゃってんだから」 生意気な孫! あたしちゃんとたっちゃんって呼んだじゃない。あたしがボケてるだなんて、有紀さんがたっちゃんに悪口いってるん…