われらとわれらの子孫のために
日本の技術力をあなどってはいけない。ついにマツコ・デラックスを1立法センチメートル以下に圧縮することに成功した。技術的に可能になった、というレベルにとどまらない。商業ベースで可能とした。大量、安価に市場に投入することが可能となったのだ。しかし一粒500円と若干高額であったために当初は誰も見向きしなかった。当時の市場の声を聞いてみよう。
「マツコ・デラックスを飲むなんて、きがくるっとる」
しかしイチローが飲み始めたという噂が流れ、日本人たちは老若男女を問わずみな服用した。だって、イチローだよ……
だが技術を過信してはならない。
圧縮されたマツコが復元するという事故が多発したのだ。腹の中でマツコが元の体積を取り戻したらどうなる? ん? 爆発するだろ! 日本人たちは次々と爆発していった。
朝、食卓を囲む平均的な一家。
「たかゆき、テレビばっかり見てないで。早くご飯食べないと遅刻するよ」
「わかってるってば。うるさいなあおおおおお」
「たかゆき……?」
「ももももんももももも」
ドォンッ、ビチャビチャビチャ(たかゆきの破片が食卓や味噌汁や床に飛び散る)
「たかゆきーッ!! あなた、たかゆきが、あ、あなたッ」
「おぼぉーっ」
パァンッ、ビチャビチャビチャ
「あなあああなななななな」
血と肉片の飛び散った居間でもちゃっ、もちゃっと音を立てて黙々と飯を食らうのは3匹のマツコである。そしてテレビの中の大塚さんも高島アナも爆発した。マツコさんとマツコアナのめざましが今、はじまる。
そう、このモデルケースで確認した通り問題は日本人が爆発することのみではない。日本がマツコだらけになるということだ。遺伝的な多様性が失われつつある。
とはいえ技術の進歩には多少の犠牲がつきものだ。
一方でアメリカの技術力も見くびってはならない。大山のぶ代はアメリカ軍によって最強の殺人マシーンへと改造された。
「ぼくドラえもん」
慣れ親しんだこの声に日本人は油断する。
「はい、タケコプター」
油断したところを高速で回転する刃で切り刻むのである。
「デュフ、デュフフフ、ぼく、ドラえもん、オボボボボ!」
後は肉片と血とのぶ代の笑い声が残るだけだ。日本人の記憶、この弱点を無情に突くアメリカンな作戦だった。
同盟国である日本に対してアメリカがこの蛮行へと至った理由は鳩山が演説で「私はいのちを守りたい」などと言い出したからだった。恥ずかしくなってテレビを思わず消すはめになったことが、テレビっこの米政府高官の逆鱗に触れた次第だった。
日本は内部、外部両面から危機にさらされていた。
けれども鳩山政権は楽観視していた。まず国内問題、すなわちマツコの件であるが、これはもうどうしようもない。飲んだやつが悪い。念のため政府はイチロー選手に確認したが飲んでいないとのことだった。
イチロー選手「マツコ・デラックスを飲むなんて、きがくるっとる」
さすが、イチローの言う通りだ。冷静に考えればマツコ・デラックスを飲むなんてどうかしている。だってまず、意味が分からない。そんなことをする意味が。愚かな大衆が噂に躍らされただけだ。次に外交問題、のぶ代の件だが、言っても過去の人である。ネクスト・ジェネレーションには通じないはずだ。但しいずれも衛生上の問題がある(肉片が飛び散って結構きたない)ため清掃には予算を投じた。予算は国会(議員はほぼマツコ)をすんなり通過した。
「ぼくドラえもん」
「えぁっ!? 全然声が違うじゃねえかよどこがドラえもんだよ死ねババア」
水田ドラしか知らない幼い子供たち=ネクスト・ジェネレーションにはのぶ代声が通用しない。のぶ代は混乱した。
「ぼ、ぼく、ぼ、ぼく、ぼ、ぼ、オボボボボ!」
ドラは秘密道具も出さずにガキを素手で殴り殺した。殺していることにかわりはないから、結果オーライだ。
ここにきて日本政府は慌てた。まさか結果オーライになるとは。急いで恐山に向かった。最強のイタコに頼みこんだ。すでに彼女はマツコ・デラックスに成り果てていたが、そんなことに構っている暇は無かった。
イタコ(マツコ)はマイケル・ジャクソンを口寄せした。
のぶ代は日本人を殺害するようプログラムされているはずだからマイケルを殺せまい。そして何よりマイケルは愛の人だから友愛をうたう現政権にはうってつけだった。いのちを守りたい。国民の皆さん(ほぼマツコ)にも理解を得られるだろう。
「僕を知っているかい? マイケルだ。君のことはよく知っているよ。生前、日本は大好きだったからね。君はたしか、ドラ……次郎。ドラ次郎だったね」
「ぼくドラえもん」
イタコ、マツコ、マイケル、のぶ代、ドラえもん、ドラ次郎(?)。スピリチュアル、テクノロジカル、ポリティカル、カルチュラル、全ての問題!
「ヘイ、ドラ次郎。やめるんだ。暴力からは何も生まれない。いや僕は怒っているんじゃない。これは愛なんだ。これは、僕の愛なんだよ」
「ぼくドラえもん」
「ドラ次郎……」
「ぼくドラえもん」
ドラはチョップした。マツコの頭はメコッと音を立てて凹んだ。
キング・オブ・ポップは二度死ぬ。
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