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OjohmbonX

創作のブログです。

永遠に続くあたしサイクルがLOVE

 草原に咲いた一輪のあたし。昼、太陽の光をたっぷりあびて風にふかれる。それはあたし。夜、すっごく寒い。
 足が完全に草原に突き刺さってる。あたしの力では抜けない。ミツルがあたしを突き刺した。ミツル、それはカレシ。あたし45年の歴史のなかで、神さまがくれた最初のカレシ。最高の、カレシ。


 あたしは一人で居酒屋にきてたよね。悲しいわけじゃない。ただ、あたしの中の孤独を喧噪で埋めたいだけ。
「ちょっとあなた。このホッケはどこ産なのかしら?」
 あたしはメニューを指さして店員にきく。だってあたしは産地にこだわる女だから。
「海です。」
「そう。じゃあホッケをいただくわ。それで、ホッケにあうワインはどれかしら」
「八海山だと思います。」
「ザッツ・ライト! それ、いただくわ。」
 あたしが箸でホッケをズタズタにしてたら隣で大学生の合コンがはじまった。
「おれ、みつるって言います。名古屋出身です。」
 あたし興奮して参加した。
「ピャアーッ! 名古屋出身なんだぁーッ! ぎゃーこくじん。」
「え?」
「名古屋って外国人のことぎゃーこくじんって言うんだぎゃー?」
「へえ、そうなんですか……」
「それであたしって催眠術にかかりやすいタイプじゃないですかあ?」
 あたしはゴリラ革のバッグからあたし作のパラパラマンガを取り出した。紐で吊り下げた5円玉の絵がかかれてる。パラパラすると5円玉が左右にゆれる。あたしは寄り目で5円玉を見つめる。だんだんあたし白目になってく。
 さ、あたしはもう催眠術にかかってるよ。ミツル、あたしに命令しなさい。「おれの女になるだぎゃー」って。あたしの生意気バディが待ってるよ。「今夜おれの味噌カツにしてやるだぎゃー」って。女が男の前で催眠術にかかるってことは、そういうことなわけ。どうしたの? 何で黙ってるの?
「お客様。」
 肩を叩かれてあたし黒目にもどす。店員がいて、ミツルたちはいなくなってた。
「あたしのカレシをどこやったの!?」
 あたしはホッケ(2匹め)のしっぽを素早くつかんで店員をビンタした。身がバラバラになって、真夏のホワイトクリスマスみたいな感じで、雪みたいにぱらぱら散っていった。
「お客様。乳首がすけております。」
 そうよ。だって白いキャミ一枚で、ブラなんて全部ゴミの日に出してやったもの。乳首がすけて当然じゃない。
「他のお客様のご迷惑になりますので。」
 あたしの乳首は現在およそおへその位置にある。重力という名の残酷な神さまのメカニズムであたしの乳首が地上へ落下しようとしている。一日、一日、ほんの少しずつ、大地、この生命たちの母なる表面へ、あたしの乳首はKISSしようと近づいていく。
 40歳まではあたし、抗議活動してた。ブラの中へおっぱい、このあわい桃色の情熱を押し込んでた。でも気づいた。人生の3分の1で気づいた。ブラは女の牢獄。情熱を解放せよ! それでブラは捨てた。Tシャツやキャミをはおるだけ。メイクもファンデだけ。洗顔、そして、ファンデの5種盛り、それで終わり。エコナチュラリストとして120歳までの残りの人生を輝かせるってあたし決めた。
 でもいま、あたしは否定された。
「じゃあ、乳首を、ちぎればいいってこと?」
 店員は無表情で黙ってる。
「あたしが乳首をちぎって捨てる、それであなた、あたしの乳首を拾って、乳首のからあげを店の新メニューにする魂胆、あたし見抜いてる。客から仕入れた乳首を客に売る、資本主義の豚!」
「黙ってそのしなびた梅干しの種をしまえババア。」
 あたしはキャミの中に地上へ向かうあたしの流れ星をしまった。消えてしまう前に3回願いをかければかなうっていう。ミツル、あたしを抱くだぎゃー抱くだぎゃー抱くだぎゃーって3回唱えるだけの時間はたっぷりあったのに、流れ星が消える前にミツルが消えちゃったね。
 あたしはふいに目頭からポロポロと丸いクリスタルを落下させる。女の涙はビューティの泉。悲しいってわけじゃない。ただ、過去があたしの小さな体からあふれ出ただけ。
 あたしがまだブラという名の牢獄にとらわれ、メイクを西洋の宮殿のようにフルボリュームでしてたころ、それはあたしがOLだったころ。あのころのあたしならミツルもあたしを求めたかもしれない、3回願いを唱えて白目のあたしを抱いてたのかもしれない、そう、味噌カツのように……。そう思って過去のあたしが今のあたしに涙を流させたのよ。


 あたしOLとして魅力がワールドレコードだった30歳。大学を出たばかりのかわいい男の子が配属されてきた。
「みつると言います。よろしくお願いします。」
「知らないわよそんなこと。殺すわよ。」
 あたしはビジネスの鬼子母神だったから、そいつの名前、性別、学歴、顔なんてどうでもよかった。仕事しかなかった。
「ピーコツー・ズィスワン、カマン!(訳:この書類のコピーを2枚とって下さい。)」
「すみません、どういう意味ですか。」
「オーマイガッ、HeySayJump。ナイトメア、アイムソーリー。(訳:これだから平成生まれは困ります。すみませんが悪夢です。)」
 あたしは別の部署に異動になった。職場は倉庫で、段ボール箱を東から西へ移動させる部署だった。
イースト、ウェスト、ゴゥ!(訳:東から西へ移動させます。)」
 倉庫の中であたしの声はピンポン玉みたいにあっちこっち跳ね返って、あたしの全身に何度もぶつかった。誰もいない、たった一人、倉庫でワールドレコードのOLが自分の声におびえて立ってる。あたし気づいた。一瞬で、空から水の固まりがどさっと落ちてくるように分かった。あの新人、あたしのカレシだったんだ。ミツルという名のカレシ。あたしが仕事と合体してたから何も見えてなかった。
「ンゲッンゲッ。(訳:バカバカ、あたしのバカ。)」
 冬の倉庫で極寒のアタックを受けたあたしの喉が、言葉をわすれて咳をしても一人。あたしはカレシと一刻も早く再会するため、仕事を全力でこなした。本社の幹部にあたしがOLとしてアンビリーバブルな存在だってことわからせて、元の職場へ戻る。人生の4分の1を過ぎてやっと気づいた大切なサムシング、もう逃がさない。
 すべての段ボールを東から西へ移動させたら、こんどは全ての段ボールを西から東へ移動させる部署だった。
「ウェスト、イースト、ゴゥ!(訳:西から東へ移動させます。)」
 何枚もの軍手がすりきれ、やぶれ、灼熱、極寒、西へ東へ、6年、あたしのひざとひじが同時に、左右両方とも突然ぐちゃぐちゃになって、あたしは退職した。
 あたしの目からダイヤモンドダストがこぼれ落ちた。もしあたしが、ビジネスの鬼子母神じゃなかったら、ミツル、あたし、二人はひとつの完璧な愛になってた。宇宙にある全部のブラックホールをホワイトホールに変えるほどの愛が爆誕したのにね。ビジネスに目がくもってなかったあたし、20歳の大学生のあたしだったら、ミツルとあたしはラブサイケデリコの可能性あった。それで過去のあたしが今のあたしにダイヤモンドダスト


 女子大生のとき、あたし、あたし、あれ、何してたんだろ? 思い出せない。サークルに入ってた。みんなでクッキーをつくるサークル。お菓子作りのサークルかな? 違う。クッキーをつくって、それを粉々にしてた。それをカマキリに食べさせてた。昆虫を育てるサークルかな? ちがう。それでカマキリを金づちで潰してた。思い出した。カンペキに思い出した。あたし、カマキリを虐殺するサークルだった。繁殖させて、虐殺する。みんなじゃない、一人でそういう活動してたんだ。
「ミツルー、ミツルー、」
 背が高くて、夏、タンクトップとハーフパンツから日焼けした腕や脚が力強く、しなやかに伸びる。明るく染めた短髪。いつも誰かがうれしそうに名前を呼んで、呼ばれた本人もうれしそうに笑顔をふりむける。
「あっちぃー。な。」
 教室の中で、イベントで配ってるウチワで乱暴にあおいでるミツル。教室の中で、図書館で、テニスコートで、駅のマックで、いつも友だちと一緒にいる。サークルの合宿の話してる。女のうわさをしてる。あたしの名前は出てこない。喋ったこともない。女といっしょにサークルに励んでる。下級生、上級生、同級生、みんなと笑い合ってる。サークルのイベントを成功させようと本気で取り組んでる。100人くらいの大きなサークル。一人一人役割があって、ミツルは会計係、下級生の女と組んで指導しながら、仲良くなってく。あっちこっちでカップルが生まれる。手をつないで、セックスに励む。ミツルも下級生の女と若い腰を打ちつけ合う。メンバーたちは本気で議論したり喧嘩しあってついに合宿の当日。用意された車からみんなが離れたすきに、あたしは一台のエンジンに5千匹のカマキリの死骸をいれた。助手席の物入れに1万匹のカマキリの死骸をいれた。山梨に向かって車列が出発する。ミツルが運転する車の助手席で、下級生の女が物入れを何気なく開ける。乾いたカマキリがあふれかえって足元にこぼれ落ちる。女はかわいげを忘れてカエルみたいな悲鳴を上げる。おどろいてミツルが助手席に振り向く。ふいに神様の歯軋りのような耳障りで大げさな音が車内を満たす。車が氷の上を滑るように道をそれて歩道の電柱に激突する。車が爆発する。怒った地球がマグマを噴出させたみたいに、火柱が空まで高くまっすぐ上がる。カマキリの火葬が、ミツルと女、その他メンバー4人と合同で執り行われる。あたし手をあわせてご冥福をお祈りした。お手てのしわとしわを合わせて? しあわせ。なむー。そして静かに泣いた。大学に入る前のあこがれがあふれてきた。あたしこんなふうに一人でカマキリを虐殺する予定じゃなかった、ほんとは、あの下級生の女のような生活を送りたかった。あたし気づいた。仲間の大切さ。もっとワンピースとか読めばよかった。仲間のかけがえのなさ。人生の6分の1も費やしてようやくわかった。中学生のあたし、まだ仲間との団結を重視してた15のあたしのままなら、あたしがミツルと腰を打ちつけ合ってた可能性かなりある。


 あたし衝撃だったね。326のイラストと詩を見たとき。あたしの中学時代は完全に326に支配されていたと言っても過言ではない。
「自分が信じられなくなったとき、手のひらをほっぺたに当ててごらん。あったかい、それが生きてるってことだから。」
 そう言ってあたし、授業中にみんなの前で間違えたクラスメイトのハートを元気づける。このときあたしにはカンペキ326が宿ってる。あたしがいつも326に元気もらってるから、今度はあたしが仲間を助ける番。なるべく全員を元気づけたくて、授業中だけど大声で叫んでた。
「出来ないことがあってもいいんだよ。その今はまだできないもののことを『可能性』と呼ぶのだから。」
 みんなあたしのこと聞いてないみたいなふりした。あたし怒って
「人生はかけ算だ。どんなにチャンスがあっても君が「ゼロ」なら意味がない。」
って言った。もうあたし、あたしオリジナルの言葉をしゃべってるのか、326の詩をそのまま言ってるのかわけわかんなくなってたけど、あたしと326は一心同体だから当たり前のことだ。あたしがだんだん326になってくのは最高だった。この中学校で一番326なのはあたしだった。なのに。
 隣のクラスの女が326の本体に会ったって。直筆の詩をもらったって。東京で。あたしは気持ちがむちゃくちゃになって、女に詰め寄って、
「土がなければ草も花も生えないのだから。(訳:だれに断って326に会ってんのよ!?)」って言った。そしてあたしはメカニズムを知った。326と会ったってゆう女の父親は893だった。だから会えたんだ。大人の汚い世界だと思った。あたしも893になりたいと思った。そしたら326に会えると思った。あたしは893に弟子入りした。
「4649! 4649!!」
 893だと思ったのにただの暴走族だった。こんなミニストップもないような、ハニワしか出土しないような田舎には原付で走り回る暴走族のニセモノしかいない。あたしは怒ってニセ暴走族に言った。
「ぬるま湯はあたたかいけど、カゼもひくんだ。(訳:あたしを326に会わせなさいよ。)」
 暴走族の原付に乗ってあたしは東京に向かった。100人の暴走族を連れて現代の大名行列だった。
「1635(ヒロミ・ゴー)も参勤交代。」
 そう。あたしは15の受験生。1635年が参勤交代の年。365年のときを経て現代によみがえるあたし大名。
「ゴゥゴゥゴゥゴゥ、ジャパーン!」
 ドゴォーン。
 おばあちゃんを山梨でひいた。おばあちゃんは100台の原付に次々と引かれてぐにゃぐにゃになって死にかけてた。
「あたし……会いに行かなくちゃ……」
 そう言い残しておばあちゃんは死んだからみんなで山に埋めた。おばあちゃんだれに会おうとしてたんだろ? 326かな? 100人の暴走族が泣きそうな顔で「もう帰るぜ4649」って言った。ババアを一人564たくらいで何怖気づいてんだガキどもと思ったけど、本物の893と違って覚悟のない奴らだからしょうがないってあきらめて帰った。それに受験のことだってあるし……。あたし原付の後ろで山梨の湿って冷たい夜の風を浴びながら326の歌を歌った。
「いつか このくもり空わって 虹を架けるはずだょ? みんなをつれてく4649。」
 歌ってたら細かい虫が口の中にいっぱい入ってきた。あたし泣いた。後悔してた。たった一人でも、この足で歩いてでも東京へ行くべきだった。326に会いに行くべきだった。893とか暴走族とか1635とか関係ない。8分の1の人生を費やしてわかった。小学生のあたし、もっと自分の気持ちに素直だったころのあたしなら、326が目を閉じて最初に浮かぶようなあたしになれてた。だって、人生はかけ算だから。あたしはお口をもぐもぐして虫がじゃりじゃりした。


 そういう意味で10歳のあたしはあたし史上最強だった。ちょうどお父さんが左遷されて転校したのが10歳だった。
「ぼくミツル。よろしくね。」
「よろしく、お願いします、だろ?」
 あたしは転校初日に隣の席のミツルをボコボコに殴ってた。あたしの右手は折れ、かわりにミツルの前歯は折れた。それから卒業までにミツルの歯は8本折ってやった。手で殴ると痛いから棒で殴ってたあたしかしこい。逆に鉄棒にミツルの頭を叩きつけたりもした。他のクラスメイトや教師にも爪をはがすとかあばらを折るくらいのことはした。それで卒アルにクラスメイト全員から死ねって書かれたのに、肝心のミツルは、力強い死ね死ねの中に埋もれるように、すっごく小さくてかわいくてぷるぷるふるえるハムスターみたいな字で、死ねって書いてあった。合計9本も歯を折ったのに。それ見たときあたし気づいた。好きなんだってこと。あたしの胸がふくらんできて、先端の小さな赤い実が固くなって、あたし、ミツルのこと好きなんだってこと。でもミツルは私立のすてきな中学校に行って、あたしは公立のカラオケボックスみたいな臭いのする中学校へ行ったから、もうおそかった。あたし人生の12分の1でわかった。もっとやさしかったあたし、幼稚園児のあたしのままだったらミツルの歯は無事で、あたしの卒アルにはミツルの書いた「大好きだよ」っていう大きくて力強い字がキラキラしてたかも。あたしの乳首、この赤い実が痛いくらい、鉄のパチンコ玉くらいかちかちになって、仁王立ちで顔に手も当てずにあたし、号泣してた。日本の地面にあたしの涙が吸い込まれていった。


 それで5歳のあたし、幼稚園でいじめられてたミツルくんの頭なでなでしてた。あたしやさしい、男の子なのにピンクの傘持ってていじめられてたミツルくんをよしよししてあげて。
「やめろ、おとこおんな!」
 ミツルくんはあたしの手を払って、ピンクの傘をぴょこぴょこ上下させながら雨の中を走って逃げてった。
 あたし「ちんちんもついてないくせに!」って幼稚園の敵とけんかしたときに言われて、くやしくて、
「あるわよ。」って言ってやったらおとこおんなと呼ばれてあたしもいじめられていた。ちんちんは、ついてないと言えば嘘つきと呼ばれるし、ついてると言い張ればおとこおんな呼ばわりされる。自分がついた嘘のラビリンスに閉じ込められてあたし息できない。苦しくって、おなかをぎゅっとつかんで、うずくまって、泣いてた。これいじょう嘘をつかないようにって、声さえ出さないようにして、でもどうしてもしゃくり上げてしまう。嘘なんてつくんじゃなかった。人生の24分の1で気づいた。嘘はいけない。もっと、嘘なんて知らなかったころのあたし、パーフェクトにイノセンスなあたしのままなら、幼稚園のほかのだれよりもミツルくんと最強の友だちになれてたのかな。苦しくってあたし泣いてた。


 嘘も言葉も知らなかったあたし、お母さんの子宮にいたときのあたし。ぜんぶ覚えてる。腐った羊水の中でエレガントに泳いでた。あたし。そしてドゴォーン、ドゴォーンって音した。お母さんのお腹をだれかが叩く音。
 あたしは完全に理解した。それはミツルがノックする音。あたしの爆誕を祝福するリドゥム。
 あたし人生の∞分の1で気づいた。あたしとミツルの運命という名のワルツのこと。会いたい。こんなババアの肉壁なんて破って今すぐ会いたい。でも腐敗した羊水プールの中じゃ泣けもしない。ただ、ミツルの予感がジューシーに広がるだけ。それであたし、出産へのあこがれが爆発して、さかのぼった人生の時間が∞分の1のポイントで反転して未来へ向かって進む。そう、きっと2分の1のあたし60歳だってミツルのこと思ってる、人生の1分の1の瞬間、あたしの120年の生命が最後の輝きを放つ時だって、あたしはミツルの気配を、皮膚にびっしり生えた産毛で感じながら、あたしの乾きはてた眼球に、突如として奇跡のうるおいが満ち、あたしの目から涙のミストが放出されるだろう。たぶんイオンとか入っててお肌にうるおい効果すごい。それで世界中のセレブが美肌のためにあたしの周りに集まって、セレブに見守られながらあたし死ぬ。
 それで終わりかな。あたしが死んで終わり? そんなことない。これはあたし、人生の1分の1で終わらない、きっとゼロ分の1を目指して進んでく。だって愛は、計算不能なものだから。そして、未来に向かって無限大の永遠だから。地球が太陽に飲み込まれても、そして太陽が小さな白い星になっても、宇宙のすべてが静かになって、ひとかけらの運動もなくなっても、あたしとミツルの愛がそこにある。


 しかし子宮の中のあたしは同時に気づく。もし肉体ができる前のあたしなら、ババアの肉壁なんか問題にならないってこと。肉体を捨ててミツルとダイレクトに精神をバッチコーイ。そんな可能性ある? あるわよ! だって、
 だってここは、人生の∞分の1と、マイナス∞分の1が出会う場所。ここからあたしはマイナスの世界、あたしの肉体以前でミツルとつながっていく。ちょっとみんな、そのへんの地面を掘ってみて。そしたら出てくるでしょ、木簡。そこに書いてあるじゃん。
「御剣尊(ミツルギノミコト)あたしを魂の全てで抱きにけり。」
 古代からあたしとミツルは約束されてる。古代エジプトパピルスにも書いてあると思う。ネアンデルタール人も壁画にかいた。きっと、ジュラ紀トリケラトプスもあたしとミツルの愛を切なく歌ってた。あたしの人生のマイナスでもあたし全てわかってる。


 過去と未来の両方に向かってあたしとミツルが一瞬で広がっていく。


 夜、あたしの肩はキャミで丸出し。すっごく寒い。あたしたぶん死ぬ。寒すぎるから。セレブもいない、暗闇の草原で、たった一人で死ぬ。120歳の人生じゃなくてもそんなの、関係ないよ。だってあたしは宇宙のはじまりと終わりに向かってミツルの予感と一緒にあるから。
 闇の中から一枚の青いショールが飛んできてあたしの肩にそっとかかる。あたし振り返る。だれもいない、ただ暗闇の草原が広がるばかり。でもわかってる。ミツルがかけてくれた。ショールっていうかド汚い青いビニールシートだけど、あたしにとってはシルクのなめらかなショール以外の何物でもないわけ。
 あ、今のであたし妊娠した。ミツルのやさしさがあたしを孕ませた。さっそく赤ちゃんがあたしのお腹をけってる。
「うるせえ!」
 ドゴォーン
 あたし思いっきりお腹を叩いた。赤ちゃんは静かになった。すっごくいい子だから、叩くと静かになる。
 生まれてくると赤ちゃんは泣くって決まりになってるね。だから、すごくうるさいから、静かになるまであたしは叩くつもり。そうやってあたしもお母さんに育てられてきたし。
「オッラァ!」
 あたし地面から左足抜いた。
「オッラァ!」
 あたし地面から右足抜いた。母は強い。ミツル、あたし、今、会いに行きます。あたし、今、愛に生きてます。あたしは闇の中へ走りだした。お腹が重い。あ、やだ。出ちゃう〜。赤ちゃん漏れちゃう〜。