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OjohmbonX

創作のブログです。

ピーチジョン

「ありえなくね? 桃から出てくるとかありえなくね?」
「関係ないっしょ。ウチとだぁが付き合っててさ、ウチらの前に赤ちゃんがいるってことはさ、これって家族だと思うんだよね」
 桃から生まれたからピーチジョンって名前にした。だぁはマジでビビりまくりだったけどとにかくミルクとおむつは絶対いるからだぁが車でスギタドラッグまで買いにいった。
 ウチは一人でピーチジョンを見てた。むちむちつるつるしてる。たぶんもう首とかすわってる。ぐにゃぐにゃしてないし。おなかをさわったら、きゃっきゃっ笑って手足ぱたぱたさせた。
 あー。やばい。かわいすぎるし。マジで。
 とりあえずアイフォンで写メとってラインで送ろうとしたけどやめた。ウチ妊娠してないじゃん。いきなし子供いたらおかしくね? だっこしたらキャッキャゆって笑ってる。やばい。


 だぁがマルハンへスロットしに、ウチがいつメンとカラオケしに行ったわけ。車はだぁが乗ってちゃったしチャリはパンクしてて乗れないから歩いてたら坂の上から大きな桃がスケボーにのってシャーッておりてきた。ウチびっくりして気づいたらキャッチ。衝撃やばくて「うっおっ」て声でて左手の中指と薬指のネイルがとれた。スケボーはそのままシャーッてどっかいった。ウチがおばあちゃんだったら今のマジで死んでたでしょ。
 マジででかいから転がして家まで運んでだぁが帰ってきて「やべえっしょ、やばくねこれ」ってビビッてたけどウチが包丁あてたらぱかって割れてピーチジョン出てきたじゃん? だぁが帰ってきた。
「おっせーよ! ピーチジョン泣いてんじゃんかよ!」
「ごめん」
「早くミルクつくれしマジでさあ」
 だぁ特製ミルクはガチ熱で「はああ? ピーチジョン死んじゃうじゃんこんな熱くてバカじゃないの?」
「ごめん」ってゆうけどだぁはうろうろして何もしないからウチが冷まして
「ピーちゃん、ミルクだよー」ってウチが飲ませてる間だぁがタオル持ってぼんやり立っててめっちゃ腹立つんですけどだぁはバイトに行った。ピーちゃんが寝てウチひとりで考えたんだけど赤ちゃんって注射とかしないといけないじゃんって思ったしそれには戸籍とかがいると思ってお役所にいったら出所証明書とかいうの必要とか言われてそれは医者とかが書くって話だしそんなん無理じゃんって絶望してたけどピーちゃんはすっごく元気でふつうに小学校とか通いだした。あと日翔(はるか)が生まれて日翔はかんぜんにウチとだぁの子でピーちゃんとは遺伝子情報ちがうけどすっごく仲良しの兄弟で家族ってさ。やっぱ家族って血のつながりじゃないんだよね。


 パパはウチが日翔を妊娠してるってわかったころ秀俊おじさんがうちんとこで働かないかって誘ってきてフリーターじゃヤバくないって思ってたし子供もいるし秀俊おじさんはだぁのおじいちゃんから吉岡電器店をついでやってたんだけどおじさんは独身で子供もいなかったから。ウチ急にわかったんだけどパパがだいたい同じ時間にまいにち朝でかけて夕方帰ってくる、ジョンは学校行ってるし日翔は幼稚園いってて同じ時間にまいにち朝でかけて夕方帰ってくる、ウチは別に変わってないのに、みんなに合わせて一日が規則正しくなる。なんか毎日がくるくる回るって感じがするわけ。だぁとウチが二人で住んでたころってだぁは結構ちがう時間にバイトにいくしウチもバイトしてたし二人とも好きな時間に遊びにいったりしてて一日がずっとぬるぬる過ぎてく感じしてほんと毎日体がダルくて今も、パパがちょうど日曜休みでみんな一緒に朝9時くらいにもう外が明るいのがカーテンから透けて見えてて布団のなかにいるときに、あの感じちょっと思い出してなつかしくなったりするけどでも、やっぱり、今の方が、充実してるって感じするし。


 森野君はジョン史上最大級の心友で、さいしょの席順が、男女の組であいうえお順だったから森野君は、ジョンのいっこ前の席だった。だからうちに遊びに来るようになって日翔とも遊んでくれてほんとの兄弟みたいじゃん。ジョンはおっとりしてパパに似てんのかなって感じだけど森野君は元気があってジョンを引っ張っていってくれる感じ。ディーエスとかでも遊ぶけど、けっこう公園とか外で遊ぶのも好きみたいで、そういうとこもいい。
 夏は毎年いつメンとBBQしてて、それはみんな結婚したり子供できても変わらない。森野君もBBQ行きたいかもってちょっと恥ずかしそうに言うからウチ大きな声で、
「もちだよ~。もちに決まってんじゃん」って言ったら
「もち~」「もち~」ってジョンと森野君と日翔がゲラゲラ笑ってたからウチも嬉しくなって笑ってた。ウチは森野君のママがいいって言うならいいよって言って、それで森野君も連れてくことになってその朝はじめてウチとパパは森野君のママを見た。
「今日はありがとうございます。航太のことよろしくお願いします」
 なんかびっくりしたし。ハデとかじゃないし、別にアクセもほとんどしてないのに、ふつうの自転車でうしろに森野君乗せてきたんだけど、ぜったいほんとの金持ちじゃんって思った。よくわかんないけど、服のセンスとか髪とか? そういうのがキホンのとこですごいんだよ。あとにっこり笑うのが、ほんとに嫌みとか作り笑いとかそういうのじゃなくて。森野君のママは「みなさんでどうぞ」ってお肉をくれた。めちゃくちゃ高いってわけじゃないのに、マジでこれうまくない? ってみんな言って、森野君はほかの子たちともすぐ仲良くなって、みんなで遊んでくれて助かったし、お礼もちゃんと言えるし、やっぱちゃんとした家ってすげえ、ウチらと違ってってみんなで笑ってて、1年生の3学期くらいからジョンは急に森野君と遊ばなくなって高橋君とか会田君とかとよく遊ぶようになってジョンに森野君と喧嘩でもしたのって聞いたら「んーそんなことないよ」っていうしそんなもんかもしんない。そんなに家がすぐ近くってわけでもないから、近所で会うこともなかった。2年生になってクラスの保護者があつまってPTAやる人決めなきゃいけなくて、吉岡さんがいいんじゃないでしょうか、吉岡さんとこって専業ですよね、と話が進んでウチPTAとか無理。でもみんなマジで口がたっしゃーで、あ、ヤバイこれヤバイと思ってるのにウチはなんて言っていいかわからなくてへらへらしてたら、「私やりましょうか」って後ろから声聞こえた。みんなびっくりしてウチもびっくりして誰って見たら森野君のママじゃん。
 4時間かかったPTAの人を決める会が終わって森野君のママのうしろにササーッてゴキブリみたいな感じでウチ移動して
「あの、なんかほんと、ありがとざした」
って言ったら森野君のママ笑ってて、「気にしないで」って。「今度よかったらお茶でもいきませんか」って。森野君のママは「もう4時間もあんな小っちゃい椅子に座ってて、いつまで経っても終わらないし、頭もぼーっとしてくるし、もういいや私で、って」と言った。
 サイゼでドリンクバーとケーキ頼んで子供のこととか旦那のこととか学校や担任のこととか話してたらあっという間に3時間とかたってた。森野さんと話してると楽しくて、なんかウチのことぜんぶわかってくれる感じ。あとから思ったけど、ウチの話うんうんって聞いてくれて、いちども「でも」とか「ってか」とかそういうこと言ってウチの話に反対してなかったこと気づいた。しかもウチは人の悪口しか言わないし、誰のこともバカにしてて、それって友だちとか、うちの親とかもキホン人のことバカにする話しかしないから、今までずっとそういう悪口を話すこと普通だと思いこんでたんだよ。でも森野さんは人の悪口ぜんぜん言わない。それなのに話してて楽しいってなんなんだろ。しかも帰るとき、「私ママ友とかっていないから、吉岡さんと話せてうれしかった。ほんとありがとう」って言ってた。ウチびっくりして「いやあ」とか意味ないことしか言えなかった。神かよ、って思ったし。ウチマジで感動してパパに言ったけどパパは「へえ、いい人なんだね」とか言ってなんにもわかってないからどうしようもねえじゃんって絶望した。


 ウチもママ友とかいなかったけど、森野さんと話しててわかったのは、幼稚園がいっしょとか、習い事がいっしょとか、スポーツ少年団がいっしょとか、そもそも地元でなんか知り合いだったとか、そういうのでママ友ってできてるらしいってことだ。それってウチにとってのいつメンってこと。森野さんは「まあ習い事とかは本人が興味持ってからでいいかなあと思ってるけど」って言ってた。スポーツ少年団のサッカーとか、ギター教室とか、公文とかどうかなってジョンに聞いたけどなんか興味なさそうだったし、パパも興味ないって感じだったし、ちょうどそのとき、おばあちゃんが亡くなった。おばあちゃんっていうのは秀俊おじさんのお母さんのことで吉岡電器店の事務とかそういうのやってて、ぜんぜん元気だったのに急に死んじゃって、それでウチがそういうの手伝うってことになって、おばあちゃんの保険のお金で吉岡電器店の上をリフォームして、1階がお店のまま、2階が秀俊おじさんの家、3階がウチらの家にして引っ越すことになった。とりあえず子供が転校せずにすんだのはラッキーだった。だって同じ学校の仲間って永遠じゃん。ウチらだってパパだって小中の仲間と今もいつメンって感じでいるわけだし。
 引っ越したらほんときゅうに電器屋の家って感じになった。いちおうお店の一階にテレビとかエアコンとか置いてあって、こんなの誰が買うんだとか思ってたけどたまに売れる。設置とか設定とかセットでおじいちゃんとかが買う。あと電球とか電池とか売れる。パパがちゃんと働いてるとこ見てウチはマジでハートがしびれるっていうの感じた。パパは第二種電気工事士っていう資格をとるために勉強しだした。パパが勉強して、それを家族みんなで応援するってなんかすごくない? 試験は年2回あって、パパは3回落ちて4回目で受かって家族みんなでパーティーして、おじさんもウチにきて、パパがなんかマジで恥ずかしがってたのがウケたんだけど、なんかほんと、幸せってこういうこと。


 ジョンがどうして自分はピーチジョンって名前なのって急に聞いてきて困ってどきどきしながらどうしてそんなこと聞くのってきいたら学校の宿題なんだって。どうしてだと思う? 当ててみてってゲームみたいな感じにしてその場は逃げてきて森野さんとファミレスで会って、宿題のこと聞いたら航太くんって名前はほんとはあんまり意味ないんだっていうけど、意味ないって言ったら友達にからかわれたりして悪いから、「航」は海をわたるっていう意味で、そういう冒険の気持ちをもってチャレンジしてほしいっていうあれで名前にしたんだということにしたという。吉岡さんとこは、って聞かれてかなり迷ったけどほんとのこと打ち明けて、ジョンが桃から生まれたこと、そしてそのことをジョンにはまだ話してないこと。でも信じられないよね、って言ったら森野さんは信じるよと言った。そんなことが起こるってことは信じられないけど、でも吉岡さんが嘘ついてないってことは信じられる、とか言われてウチびっくりした。
「そうかあそれで、桃から生まれた」
ピーチジョン
って言ったらおかしくって二人で大笑いした。息できなくなるくらい笑った。他の客がちょっと嫌な顔してるのウチ気づいたけど、でも、なんかこんなに気持ちいいのに、邪魔する権利とか誰にもないって感じした。


 森野さんが桃の花ことばをスマホで調べたら「天下無敵」で、あとこれから国際的に活躍できる人になってほしいって願いをこめてジョンもつけて、それでピーチジョンってことになって、ジョンにそのこと話したら「天下無敵なんだ」って言ってうんうんうなずいてたから納得したみたいだったけど、それから夏休みになって関東連合を倒しにいくとか言い出した。
関東連合はみんなを苦しめているから」「ぼくの使命だと思うから」「天下無敵ってゆうのは、強さは、だれかのために役立てることだから」ってジョンは言ってウチは感動したけどパパはすごくビビって反対してて、ジョンは異常にがんこに関東連合を倒しにいくっていってきかなくて、自己主張とかわがままとか言ってるのあんま見たことなかったからみんなびっくりした。
「ぼく、生まれてきた時代が、少し違うのかも」
「えっなに。どういうこと」
「よくわかんないけど……」
 パパはジョンと一緒に旗をつくった。ホームセンターで棒とか布とかを買ってきて、のこぎりで切って、布にマジックで「天下無敵」って書いて、棒にガムテープではって、旗を作った。これを夏休みの工作として提出するつもりだって。ウチはお弁当を作った。お弁当ってジョンが1年生の春の遠足ではじめてウチ作って、ネットで調べたらキャラ弁とかが流行ってるっていう話らしいけど、どういうしくみで作られているのかがぜんぜんわからなかったから、ウチはウインナーを焼いて、あと卵焼きと、プチトマトと、ごはんを入れて、完成した。ウチにはそれ以外の方法がなかったから、次も同じお弁当をつくったら、ジョンが、同じお弁当は恥ずかしいからって怒って、ウチもわざわざ作ってるのに怒られるのは意味わからないから怒ったけど、あとから考えたら、かわいそうだったかもしれないと思って、森野さんに相談したら、冷凍のハンバーグとかを使えばいいという話。だから冷凍のドリアを買ってきて、チンして容器からお弁当の2段目に移したら、ドリアの上の黒いやつが崩れてぐちゃぐちゃになってしまったけど、味は変わらない。しかしジョンはお弁当から中身が出てカバンの中が汚れたって泣きながら怒ってて、ウチも泣きながら怒った。
 それで今回は関東連合を倒しにいくということで、ほんきでお弁当作ったから。ウチはコロッケとか作ったことなかったけど、お母さんに聞いて作り方を教えてもらって、前の日に練習で作ったらそれはべちゃべちゃのなんか違うやつができて、意味わからなくてラインでお母さんに連絡したらお母さんがきてくれて、油の温度が低いとかいう。そんなこと言われても温度とか見た目でわかんないじゃんね。けっきょくお母さんがほとんど作ってくれて、みんなで食べて、日翔がおばあちゃんのコロッケ変な味するとか言ったけどジョンは何言ってるのおいしいでしょって言って、お母さんはピーちゃんはちゃーんと味がわかるもんねーっておどけながら言ってたけどお母さんは日翔よりジョンを露骨にひいきしている。たしかにジョンの方が物わかりがいいしわがままを言わないからかわいい。血がつながってるのはジョンじゃなくて日翔の方なのにジョンの方が好きっていうのは、やっぱり家族って血の問題じゃないんだなって思うけど、ひいきするのはやめてほしい。


 おばあちゃんのコロッケを入れたお弁当をリュックにいれて、リュックにパパと作った「天下無敵」の旗をつけて、あとそれでもお腹がすくといけないからウチが一本満足バーを20本くらい買ったので、それをパパがひもでくっつけてジョンの腰にまいた。パパはわんわん泣いて、日翔は昨日までさんざん自分も行きたいと言ってたくせに関東連合の恐ろしさを聞かされてからずっと黙ってる。
「じゃあ行ってきます」
とふつうの声で言ってピーチジョンは家を出た。


 ピーチジョンが歩いているとチワワが来てギャンギャン吠えたてた。飼い主の女が引っ張って離れさせようとするけれど、チワワは強い力でピーチジョンにまとわりついて吠え続けた。ピーチジョンは驚きもせず腰につけた一本満足バーをむいて足元に落とすと、チワワは猛然と食い始めた。女は「バーバリーに変なものを食べさせないで!」と怒り始めたけどピーチジョンは無視して歩きはじめるとチワワもついてきて女は道に引きずられていた。
 ピーチジョンが歩いていると公園にたくさんの鳩が集まっていた。ピーチジョンが腰につけた一本満足バーを三本むいて鳩たちの中に投げ入れると鳩はかたまりになって貪った。それから鳩たちはチワワに引きずられてボロボロになった女の上におとなしく乗って、ピーチジョンについてきた。
 ピーチジョンが歩いているとペッパーがやってきて「こんにちは」と言った。他人の情報を不当に収集し、ソフトバンクへ送信するために街中に放たれたものたちの一台だった。ピーチジョンは腰につけた一本満足バーを砕いてペッパーの顔にふりかけると、ペッパーは目を黄と赤でビカビカ光らせて「ギエーッ」と言った。ついてきた。
 ピーチジョンは途中、公園のベンチでお弁当を食べた。鳩さん、わんわん、ペッパーには何も食べさせなかった。そして関東連合が住んでいるシェアハウスに到着した。ノックすると40歳くらいのやせた男が出てきた。
「こんにちは。関東連合ですか」
「はい、関東連合です。こんにちは。誰ですか」
「吉岡ピーチジョンです。こらしめます」
 ピーチジョンは建物の中に入ろうとしたけれど、止められた。男はピーチジョンと一緒にいる鳩と雀とカラス、犬と猫とペッパー、紐で引っ張られた何かを見て、
「それは何ですか」と言った。
「ぼくの友だちです」
「へえー」
 ピーチジョンは建物の中に入ろうとしたけれど、止められた。
「ここは動物はダメだよ」と男は言った。
「そんなこと知らないです。入ります」
 ピーチジョンはパパと作った「天下無敵」の旗で男を殴った。
「いたいいたい。やめてやめて」
 男は床にうずくまってその隙に、ピーチジョンと鳩と雀とカラス、犬とペッパー、紐で引っ張られた何かが関東連合のシェアハウスに入った。猫はいつのまにかいなくなっていた。それほど広くないリビングのテーブルに関東連合の人たちが集まってテレビを見ながらぼんやりしていた。
「吉岡ピーチジョンです。関東連合は悪いのでこらしめます」
「ちょっと待って。ぼくらは悪い関東連合じゃない。ぼくらは関東連合のOBだけど、今はみんなで寄り添って生きてるだけだよ」
「うるさい!」
 鳥たちが男たちに襲いかかった。チワワも激しく吠えたてた。ペッパーも「ごめんなさい」と言いながら激しく殴っていた。
「いたいいたい。やめてやめて」
 静かになった。鳥の羽がリビングに舞っていた。男たちはぐんにゃりして床に横たわっていた。
「どうしてひどいことするの。本当に悪いのは、六本木ヒルズにいる人たちだよ。OBなのに関東連合の名前をかくして、やくざと組んでビジネスして、お金もうけて、ますます悪いことしてる。ぼくらはお金ないけどみんなでお金を出しあってシェアハウスで暮らしてただけなのに」
 関東連合の男たちはしくしく泣き始めた。ピーチジョンは小さな胸をいためて、唇をかんでうつむいた。チワワはおとなしくお座りしてペッパーは電源が入っていないみたいに静かだった。急にリビングの奥のドアが大きな音を立てて開いた。ドアの向こうの暗がりからものすごく大きなゆるキャラが現れた。ゆるキャラはドア枠につまったけれど、激しい苛立ちを露わにして乱暴に抜け出てきた。2メートルくらいの高さのゆるキャラだった。
 動物たちが騒ぎ出した。ペッパーが高速でぐるぐる回転し始めた。ピーチジョンが動物たちやペッパーをなだめようとして後ろをふりかえるといつの間にかすぐ目の前にゆるキャラが壁のように立っていた。ピーチジョンは驚いて少しあとずさりしたが、思いなおして小さな拳を思い切りゆるキャラの腹に叩き込んだ。ゆるキャラは何の反応も見せずにそのままピーチジョンを見下ろしていた。続いてピーチジョン一本満足バーを素早く腰から取ってむき、ゆるキャラの口にねじ込んだが手で払いのけられた。ちょっと待ってよ。ゆるキャラってもっと子供を楽しませる存在じゃないわけ? こんなのおかしくない? だからウチがゆるキャラを思いっきり殴った。ゆるキャラは「キャーン!」ってゆって奥に帰っていった。
 ピーチジョンはぼんやりしてたけどすぐに怒って泣き出した。
「ぼくがやるってゆったのにどうしてママが勝手なことするの?」
 ウチはほんとにこの子のこと考えてやってあげたのにそれを「勝手なこと」とか言われてほんと頭くる、だいたいあんたなんてウチがお腹を痛めて産んだ子じゃ
「ああ、あなたがこの子のお母さんなんだ」
 びっくりして見たら足元にずたぼろの女が仰向けに寝ててこっち見てた。
「あなたの子はすごいよ。だって一人でここまできて、それにアタシのバーバリーなんて誰にもなつかないのにあなたの子にはこんなになついてる。すごいよ。ほめてあげて」
 そう言って女は息絶えた。ジョンはウチのこと精一杯にらんで涙をぼろぼろこぼしてる。子供の悔しそうな顔みるのはつらい。ウチも涙をぼろぼろこぼしてた。
「ごめんね。ママ、ピーちゃんがあいつにいじめられてるの見たら、どうしても許せなくなっちゃった。でもピーちゃんはもう天下無敵なんだもんね。ママがやらなくても、ピーちゃん一人でできるのに、ママ、ピーちゃんのこと、これからはもっと信じるから」
 ウチがピーちゃんをぎゅっとしたら、ピーちゃんもぎゅっとしてきて、二人でわんわん泣いた。
 あと、だぁとの間に女の子が生まれたので美踊聖(ビヨンセ)って名前にした。