OjohmbonX

創作のブログです。

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 ちょうど10年前の話。
 中学生だった娘にたまごっちを買ってきてくれとせがまれたので「たまごっちだよー」と言ってゆで卵(むいたやつ)を渡した。「これ白いやつじゃん! 超レアなんだよー、どうやって手に入れたの、お父さんすごい! 熱っちゃー!!」ゆでたての尋常じゃない熱さのたまごっちを素手で持つのに耐えられなかったらしく、娘はたまごっちを放り投げた。たまごっちは床に衝突して崩れ、黄身が見えてしまった。「お父さん、ごめん、私……」「大丈夫だから、お風呂に入ってきなさい」娘が風呂に入っている間に冷蔵庫から卵を取り出し、茹で、殻をむき、氷水で冷やしておいた。そしてそれを、風呂上りの娘に渡した。「たまごっちだよー」「これ白いやつじゃん! しかも熱くない!」
 その翌日から、娘の話題はたまごっちがほとんどを占めるようになった。「今日、学校で自慢しちゃったー」「とうとうくちぱっちになったよ」「授業中にやってたら先生に見つかって取り上げられたーマジむかつく」「てか何回やってもくちぱっちにしかならないんだけど」……さすがに私も不安になったが、世間のたまごっちブームが冷めるのと歩調をあわせるように、娘のたまごっちの話題も減っていき、私もいつしか思い出すこともなくなっていた。


 そんな娘も、とうとう結婚することになった。
 披露宴で、娘がいきなり「ゆで卵じゃねえかーっ!!」と叫びながら私の口にあつあつのゆで卵を突っ込んだ。誰もが、「たしかに、ゆで卵だが……」とあっけに取られた。長期的ノリツッコミのつもりなのだろうが、面白くないので、罰として孫を茹でるという報復ボケを計画中だ。

私の記憶が確かならば……こんなストーリーだったような……

 ヤギ似の少年ペーターは、ハイジおじいさんに胸をもみしだかれながら、思った。
「俺はヤギ似なのだから、何としてでもお乳を出さなくてはいけない」
 節くれだって弾力のないざらざらしたハイジおじいさんの手で胸をもみしだかれながら、ペーターは、しかしこうも思った。
「もっと、胸じゃないところもさわってくれたらいいのに。首とかわき腹とか太ももの内側とか、それから……」
 もちろん、ペーターの願いがかなうことはなかった。なぜならペーターがヤギ似だからだ。
 来る日も来る日も誰にも邪魔されず山小屋の中で胸をもみしだき、しだかれていた二人の目の前に、ジオング少女クララが姿を現した。
「脚なんてただの飾りです。偉い人にはそれがわからんのです
と自主的に言った後、クララはおもむろに車椅子から立ち上がった。奇跡が起きたのだ。
「クーララが立った! クーララが立った!」
 そのとき、ペーターの乳首から母乳が噴出しはじめた。クララの奇跡にペーターが感動したから、ペーターにも奇跡が起きたのだ。
 さらに、<眠れる獅子>と呼ばれ恐れられていたハイジのI・CHI・MO・TSUが目覚めた。ペーターの奇跡にハイジが興奮したから、ハイジにも奇跡が起きたのだ。
「ハーイジも立った! ハーイジも立った!」
 負けじとクララがもっと立ち上がる。すると母乳がもっと出る。そしてI・CHI・MO・TSUがもっと硬くなる。負けじとクララが…………奇跡のスパイラル! トライアングル奇跡!!


 1970年代の日本人は例外なくこのアニメに笑い、涙したそうだが、1985年生まれの私には信じがたい。